1.噂と、世界一を目指す剣士。
「クレオさん、今日はどんなクエストを受けますか?」
「思ったんだけど、態度変わり過ぎじゃない? キーン」
――レライエ戦から数日。
なにやら、あの日以来キーンの態度が大きく変わっていた。
言葉遣いは丁寧になったし、朝の挨拶の際も非常に礼儀正しくなっている。こそばゆいのでやめてほしい、と言ってもエルフの青年は首を横に振った。
『これは、エルフの誓いです。大恩ある方には忠誠を尽くし、その恩に報いるまでお仕えするという――エルフの魂に刻まれた誓い故なのです』
そして、そんなことを言うのだから困ったもの。
たしかにレライエとの一戦では、ボクがキーンを守った形になったかもしれない。それでも同じパーティーの一員として、立場は対等のはずだった。
なので堅苦しい関係ではなく、もっと柔軟になってほしい。
そう思うのだが、解決できないまま数日が経過していた。
「……まぁ、いっか。そのうち慣れるよね」
ボクはため息を一つ。
こうなっては仕方ないだろう、ということにした。
そんなわけで、今日も一日頑張ろうと思いつつ、ギルドへと足を踏み入れる。そして掲示板に張り出されている情報を確認していた。その時だった。
「だから、我はクレオという少年を探しているのだ!」
「ふえ……?」
不意に、自分の名前が呼ばれて変な声が出たのは。
中性的な声がした方を見れば、そこにいたのは細身の剣士が一人。仁王立ちして受付のオバサンに、何か詰め寄っていた。オバサンの方は困ったように苦笑い。
紅い髪をした軽装の剣士は、再び声を荒らげた。
「だから、我はクレオを探しているのだ! このギルドで一番の剣士だと、そう噂を耳にしたのでな! ぜひとも決闘を申し込みたい!!」
細身な身体に反して、声がでかい。
とにかくでかい。
でも、それ以上にボクは首を傾げてしまうのだった。
――誰が、ギルドで一番の剣士だ、って?
「あの~……?」
「む、どうしたのだ! そこの少年!!」
ボクは、おそるおそるその剣士に声をかけた。
中性的なその顔立ち。しかし、金の眼差しはとても鋭かった。先ほどなにか不穏な言葉が出た気がするが、それに似つかわしい攻撃的な容姿。
背丈はボクと大差ないだろうか。
身に着けるのは胸部以外、肌を露出した革の鎧だった。
腰元には細身の剣を差しており、それにはどこかで見た紋章が刻まれている。
「その、クレオ……さんが、一番の剣士だって噂はどこから?」
ボクは自分だということがバレないよう、注意してそう訊いた。
すると剣士は腕を組んでから、ハッと何かに気付いたように指差す。その先にいたのは、我がパーティーメンバー、キーンの姿。
「あそこの青年から、だな」
「………………」
――おい、待てキーン。
ボクはさすがに、内心でそうツッコみを入れた。
まさか、そんな話をギルドで言い触らしていたのではないだろうな、と。視線で訴えかけると、彼は目を逸らして口笛を吹き始めた。
これは間違いない。
犯人はあのエルフだった。
「はぁ……」
ボクはため息を一つ。
赤髪の剣士に向き直った。すると、そんなボクを見て――。
「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったな。我が名はエリオ・リーディン」
手を差し出しながら、こう言った。
「世界一の剣士を目指している者だ」――と。