3.アルナの微笑み。
「それで? 相変わらず、クレオの親父は迷走中か」
「そうですね。時々に確認しに行ってますが、最近では灰のようになっています」
紅茶を飲みながら、アルナとリリアナはそんな会話をしていた。
クレオの父親――ダン・ファーシードは、クレオ捜索に多額の資金を投じたようで、家計が火の車になっているらしい。それでも見つけられないのは、やはり彼がボンクラ、という証明だった。
一つため息をつきながら、リリアナはアルナにこう訊く。
「それで、その話は本当なのですね?」
「間違いない。マリンの親父が死んでから、少しばかり騎士団で調査をすることがあってな。そうしたら、クレオの関与が判明した」
「はぁ……。灯台下暗し、とはこのことですね」
「というか、クレオの親父もまずは王都を探せばいいのにな」
「本当、その通りです。彼に任せた私に責任がありますね」
そう言って、しかし反省の色を見せずに。
リリアナはもう一口、紅茶を口に含むのだった。
「お任せして、良いのですね?」
それが、気持ちを切り替える合図だったのだろうか。
リリアナは馴染みの騎士に向かって、真剣な眼差しでそう訊いた。すると相手は、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべて答える。
そこにあったのは、何かを楽しみにする無邪気な子供の顔だ。
「あぁ、任せてくれ。どうやら、少しばかり懐かしい奴にも会えそうだからな」
「懐かしい、奴……?」
アルナの言葉に、王女はほんの少しだけ怪訝な表情を浮かべる。
だがそれも気にせず、少年騎士は紅茶を一気に飲み干して立ち上がるのだった。
「あぁ、アレからずいぶん経った。そろそろ、再戦したいと思ってたんだよ」
傍らに置いてあった、鞘に入った剣を持ち。
アルナは、心底嬉しそうに笑った。
「なにかは聞きませんが、あまり遊ばないでくださいね?」
「分かってるさ。でも、悪いけど――」
そして、扉の前まで歩いてから。
リリアナの方へと振り返って、彼はこう言うのだった。
「もしかしたら、ちょっとだけ問題が起こるかもしれない」――と。
無邪気な表情で。
それを見たリリアナは、呆れたように肩をすくめる。
そして同時に、諦めたようなため息をつくのだった。




