2.新しい家族、繋がれた未来。
――クリスの死から数週間が経過した。
世間で騒がれるのは、カオン・シンデリウスの死だけだった。その裏にあった一人の少年による恋物語など、知られるはずもない。
加えてマリンも、そのことを多く語ろうとしなかった。
それでも今日、ボクたちは一つの墓前に立つ。
「お別れは、済んだの?」
「えぇ。わたくしもやっと、心の整理がつきました」
ボクの仲間全員とゴウンさん、そしてマリン。
目の前にあるのはクリスの眠る場所。シンデリウス家の裏庭に、ひっそりと作られた墓には綺麗な花が供えられていた。
順番に祈りを捧げ終わった。
その最後を務めたマリンの目は、ほんの少しだけ潤んでいる。
「もう少し、ゆっくりしても良いのに。家のことも大変だったのに……」
そんな彼女を見て、ボクは思わず言った。
シンデリウス家の当主は死んだ。それはすなわち、マリンが家督を継ぐということに他ならない。様々な手続きや、国王陛下への謁見。
それらをこなすのに必死で、考える時間があったか分からない。
だけどマリンは、静かに首を左右に振った。
「いいえ。これで、いいのですわ」
そして、ボクの顔を見て笑みを浮かべる。
「きっとクリスも、わたくしが泣いているのを見たくはないと、そう思いますの。せっかく彼が未来を与えてくれたのですから」
「マリン……」
「それに、わたくしのガラじゃないですから!」
言って彼女は、大きく伸びをした。
これで一区切りだと、そう言うようにして。
「もちろん、クリスのことは生涯忘れることはありません。それでもわたくしは、だからこそ前を向かなければなりません!」
「……そっか!」
最後に、それを聞いてボクも安心した。
頷き返してチラリと、傍らにいる一人の少女を見る。それはマリンの妹――。
「マリンさん、お疲れ様なのです!」
マキ、だった。
今まで我慢してきた言葉を、柔らかい笑みに乗せて告げる。
受け取ったマリンも、彼女の気持ちを理解している。微笑み返してその頭を撫でた。今この時、二人は本当の姉妹になったのだろう。
ボクには、そう思えた。
「ねぇ、マキ? それに、ゴウンさん――提案がありますの」
「提案なのです?」
「どうしたっていうんだ?」
次にマリンが、そう切り出す。
マキとゴウンさんは、不思議そうに首を傾げた。
そんな二人に向かって、シンデリウス家新当主はこう言う。
「わたくしと、この家で、共に暮らしませんか……?」――と。
家族になってほしい、と。
それは、今まで家族の温もりから遠かった、一人の少女の願いだった。
「マリンさん……!」
断る理由など、ない。
そう言わんばかり、マキはすぐにマリンへと抱き付いた。
ゴウンさんはそんな娘の様子を見て、ただ静かに、そして優しく微笑む。
「ありがとう、ございます……!」
木漏れ日の差す、シンデリウス家の裏庭で。
一つの家族が誕生し、一人の少女の顔に愛らしい笑みが生まれた。




