5.一つの歴史の終わり。
「クリス……?」
「すまないな、クレオ。しかし、ここから先は私が請け負わせてもらう。お嬢さまが大切にしている者を、私たち同様の外道に落とすわけにはいかない」
ボクがカオンにトドメを刺そうとした時。
それを止めたのは、クリスだった。彼は足を引きずり、瞳の力を失いながらも、ただ真っすぐにボクたちの方へとやってくる。
手には一本のナイフ。
ゆらりと、薄暗い空間でも煌めくのが分かるそれ。
「…………分かった」
彼の表情を、浮かぶ笑みを見て。
ボクは小さく頷いた。カオンが逃げないようにだけ気を遣い、少年に引き渡す。
カオンは目を見開いて歯を食いしばる。悔しげな顔をしながら口にしたのは、命乞いとは違う、命令とも取れる言葉だった。
「良いのか、クリス! 私が死ねば、貴様の心臓も動きを止める! ――呪術による契約を解除するつもりはないぞ!」
「………………」
さらに言えば、脅迫。
だがクリスは黙ったまま、動きを止めることなく得物を掲げた。
そして、静まり返った空間によく通る声で、主であった者に告げる。
「構わない。それこそが、私にできるせめてもの恩返し。そして――」
視線をひときわ、鋭くして。
「私という命、その意味だ」――と。
振り下ろす。
ナイフを、カオンの心臓目がけて突き立てる。
抉るようにして、その生命を断つために、殺めるために。
「――――がっ!?」
シンデリウス家当主は、血の塊を吐き出した。
そして逆らうようにクリスの腕に触れたところで……。
「終わった、のか……?」
力なく、それは垂れ落ちた。
クリスもゆっくりと、力を緩めて頷いた。
「あぁ、これで呪いの一族は――」
すべてが終わった、と。
クリスの宣言をもって、一つの歴史に幕が下ろされた。




