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1.カオン・シンデリウス。
めちゃ短いです。
――その青年は『背徳の子』と呼ばれていた。
本来の流れからは外れた妾の子。しかも暗殺者と貴族の間に生まれた子として、素性こそ一部の者たちしか知らなかったが、蔑まれて生きてきた。
そんな彼の中に湧き上がった感情は恨み、憎しみ、あるいは羨望か。
相反するような心は禍根という鍋によって煮詰められ、ついには一人の化物――悪鬼と言えば良いか――を生み出した。
『お母様。私は、必ずや……』
そんな青年を唯一、可愛がったのは母親だった。
シンデリウスの前当主であった父にも見て見ぬふりをされ、絶望の中でも自我を保ったのは、おそらく彼女の存在があったから。
だが、その母親も早くに命を落としてしまった。
墓前にて青年は誓う。
必ずや、母が喜ぶような人物になってみせる、と。
『……私は、そのためならば外道にもなろう』
青年――カオンは、花束を供えてそう呟いた。
それは、誰の耳にも届かない決意。
きっとその瞬間に、彼の命運は決したのだろう……。




