5.消えぬ、カオンの劣等感。
「この少年――たしか、ファーシードの子供だったか」
カオンは眉をひそめながら、そう確かめるように漏らした。
目の前ではクレオが暗殺部隊に対して、圧倒的な戦闘力を見せつけている。おそらくは身体強化の魔法の類だろう。速度や力、その他の能力の高まりが感じられた。元より高い身体能力を誇っていたのだろうが、そこに魔法の才も加われば、鬼に金棒だ。
だが、カオンにとってはそれ以外に思うところがあった。
それは彼のいた家のこと。
「ファーシード……! 私を見下した、ダンの息子……!!」
そして何よりも、宴の席で彼の父親に言われたことであった。
カオンにとっては忘れもしない、シンデリウスの当主に上り詰めた際の出来事。ついに憎きゴウンを追放した次の日の夜、彼は他の貴族に会いに行った。
その時だった。
唯一、ダンのみが彼を見てこう言ったのは。
『ふん……。穢れた一族の末裔が、ついに途絶えるか』――と。
頭を垂れて挨拶したカオンにかけられた、侮蔑の一言。
それは、著しく彼の自尊心を傷つけた。
「忘れない。忘れないぞ……!」
クレオの廃嫡が決まり、その判断で王家に見放されているダンを見て、多少ながらも溜飲は下がった。だが、それでも傷は消えない。
その子である少年を見ると、嫌でもあの日のことがちらつくのだ。
自分を嘲笑ったあの無能な公爵の、間抜けな顔が……!
「さぁ……。野心の欠片もない、あの愚かな公爵の息子よ! ここまで来い、今こそ私が真なる強者であることを、王都に知らしめてみせよう!!」
間もなく、暗殺部隊は片付く。
それを楽しげに待ちながら、カオンはそう言った。
私怨に満ちたその歪んだ表情。
それは、もしかしたら誰でも至る可能性のあるそれだったのかもしれない。




