4.彼にできる、唯一の。
「嘘ですわ……! こんな、こんなことって――」
「おい、マキ! 起きろ!! 目を覚ましてくれ!!」
マリンとゴウンは取り乱す。
最愛の少女は全身からその力を失って、だんだんと冷たくなっていくのだから。
何度揺すっても、マキが目を覚ますことはなかった。事実が事実として突き付けられ、二人の心の中に大きな動揺を生んでいく。
「マキ、マキ…………!」
ようやくできた親友だった。
ようやくできた家族だった。
一人の少年しか見ることが出来なかった彼女にとって、かけがえのない存在。そんな少女の命がいま、失われつつある。
焦りを隠せないのは父であるゴウンも同じだった。
彼にとっても、一度失ってしまった、大切な人との宝物。
「ナキ、マキを助けてくれ……!」
だから、願うのだ。
亡き妻に向けて、頼むから助けてくれ、と。
だが、その祈りも儚く。刻一刻と時間だけが過ぎていく。そう、思われた――。
「お待たせ致しました。お嬢様……」
その時だった。
一人の少年の声が聞こえたのは。
「貴方は……?」
「私の名前など良いのです。いまは、その少女に治癒魔法を……」
その少年は、ふらつく足で近寄ってくる。
虚ろな目をしながら、それでも確かな目的を持って。
「で、でも……。マキはもう……!」
「諦めるなんて、お嬢様らしくありません。人一倍努力をしてきた貴方が、ここで諦めてしまっては、いけませんよ……」
ふっと綺麗な顔に微笑みをたたえて、少年はこう続けた。
「それに、ほら――その少女の命は、まだ消えていません」
傍らに膝をついて、マリンの手をマキの胸に当てながら。
すると彼女の手に伝わってきたのは、本当に微かな鼓動だった。それはすなわち、マキの心臓がまだ、動きを止めていないという証拠。
ハッとした表情になり、マリンは少年を見た。
「これ、は……」
「いまこの少女は、呪術による仮死状態にあります。私が貴方のナイフに施したそれによって、治癒では届かない場所に命を置いている」
「な、なぜそのようなこと……!?」
語る少年に、思わず声を荒らげる。
すると彼は本当に柔らかく微笑んでから、こう言った。
「私は、貴女に誰かを殺してほしくはなかった。その手を汚してなどほしくはなかったのです。だからせめて、反抗にならない範囲で力になりたかった」
――この呪術は、私ができる唯一の手助けです。
マリンはそれを聞いて、息を呑んだ。
この少年は、自身の過ちを未然に防いでくれていたのだと、理解して。
「この少女の傷は深い。呪術で仮死状態を保っているうちに、治癒魔法で傷をふさぐのです。その後に呪術を解けば、きっと大丈夫……」
「わ、分かりましたわ……!」
マリンは少年から説明を受け、魔法を使おうとして。
しかし、その前にふと、手を止めた。
「あの、貴方のお名前は……?」
それに対して、少年はまた優しい笑みを浮かべてこう答えるのだ。
「名乗るほどの者ではありませんよ、お嬢様……」――と。
◆◇◆
ボクは周囲に注意を払った。
カオンは目の前にいる。それでも、もっと警戒しなければならないのは、そんな彼を守るように存在している暗殺部隊だ。
直感が告げている。
この暗殺部隊は、外に構えていたような奴らより、何倍も強いということを。
「…………いや、違う」
この感覚は、違った。
決して彼らの身体能力が優れているわけではない。
しかし、その暗殺部隊から感じられる力は、一回り上だった。少し考えてからボクは、その正体に気付く。
「呪術、か……」
それは、カオンの呪術によるものだと。
その者たちの意識を完全に奪い、身体の限界を超えた動きを可能とする。当然ながら、そんな動きをさせられた人間は壊れてしまうだろう。そうなればきっと、捨てられる。ボクも多少は呪術に覚えはあったが、これほどまでのことはできなかった。
いいや、もっと正確に言えば、してはいけないことだ。
この男――カオンの倫理観は、壊れている。
「さぁて、まずは踊ってもらおうか!」
そんな外道は、そう声を上げた。
すると暗殺部隊が信じられない速さで、こちらを取り囲む。
「――ショーの始まりだ!!」
そして高らかな宣言が、響き渡った。




