5.それぞれの思い。
「おかしいな、警備が手薄すぎる……」
「お父さん。それって、つまりはどういうことです?」
廊下を走りながら、ゴウンはそう漏らす。
すると娘はそんな父の言葉に、不安げな声で訊ねた。ゆっくりと速度を落としながら、父は周囲に注意を払い、マキに止まるように指示を出す。
立ち止まった彼らは、静まり返った豪邸の中で息を整えた。
ゴウンは誰もいないことを確認した後に、それでも小さな声で言う。
「警備の配置が極端すぎるんだ。普通ならカオンのもとへ近付くにつれて、人手も多くなっていくはず――それがどういうわけか、むしろ減ってきてやがる」
「……………………」
「これは、追い詰めているというよりも――」
――誘い込まれているようだ、と。
その言葉を呑み込むゴウン。
傍にいる娘が、不安にならないようにするためだろう。しかし、いつまでもそんな扱いをしている余裕もないことは、彼も分かっていた。
再び歩を進めながら、自身の残した因縁を思い返す。
「俺が、決着を……」
そして、そう呟く。
弟であるカオンとは、昔から反りが合わなかった。だがそれも、ここまでくると滑稽だ。ゴウンはそう考えるが、笑うような気持ちにはならない。
「マキ、この先にカオンがいる」
「…………はいです」
戦斧を手に取って、一つの大きな扉の前に立った。
マキに声をかけ、彼女が頷くのを確認してからそれを押し開ける。
するとそこには、弟――カオンの姿。
「やあ、会いたかったよ――――兄さん?」
白々しいセリフを口にして、両手を広げる長身痩躯の優男。
その傍らには、マリンの姿があった。
◆◇◆
「つ、強すぎる……!」
「化物か!? ――なんだコイツは!!」
過半数を退けた頃からだろうか。
暗殺部隊の者たちは、口々にそう言いながら敗走を始めた。それでも何人かは、なにかに突き動かされるように襲いかかってきたので、ひとまず眠ってもらう。
手応えからして、ここに集まっているのは手練れではないのかもしれない。
そう考えると、早く二人に合流しなければと、気が逸った。
そんな時だ。
「やはり貴様は、規格外だな……」
「クリス、か……」
暗殺部隊の中で唯一名を知る、少年が姿を現したのは。
クリスは堂々と歩み寄り、他の暗殺部隊に下がるよう指示を出した。ボクはそれを見て、ゆっくりと手に持った短剣を下ろす。
「おや、戦わないのか?」
「そっちだって、戦うつもりはない、でしょ?」
それを見て、小さく笑いながら少年はそう言った。
彼の言葉にボクは、少しだけ首を傾げて答える。するとどうやら、こちらの読みは当たっていたらしく、クリスは覆面を外してその綺麗な顔を晒した。
口角を上げて、不敵に微笑みながら。
美形の少年は一言、こう語った。
「――――この状況ならば、降参しても仕方ない、だろうな」
ナイフを投げ捨てて、両手を上げる。
そんな彼の姿を見てから、他の暗殺部隊も同じ行動を取った。
「クリス、キミの目的を教えてほしい。キミは――」
そんな光景を目の当たりにして、確信に変わったそれを口にする。
「どうやって、マリンのことを救うつもりなの……?」
クリスは笑った。
とても、悲しそうに。
胸を押さえて、口の端から血を流しながら……。