表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/210

5.それぞれの思い。







「おかしいな、警備が手薄すぎる……」

「お父さん。それって、つまりはどういうことです?」


 廊下を走りながら、ゴウンはそう漏らす。

 すると娘はそんな父の言葉に、不安げな声で訊ねた。ゆっくりと速度を落としながら、父は周囲に注意を払い、マキに止まるように指示を出す。

 立ち止まった彼らは、静まり返った豪邸の中で息を整えた。

 ゴウンは誰もいないことを確認した後に、それでも小さな声で言う。


「警備の配置が極端すぎるんだ。普通ならカオンのもとへ近付くにつれて、人手も多くなっていくはず――それがどういうわけか、むしろ減ってきてやがる」

「……………………」

「これは、追い詰めているというよりも――」


 ――誘い込まれているようだ、と。


 その言葉を呑み込むゴウン。

 傍にいる娘が、不安にならないようにするためだろう。しかし、いつまでもそんな扱いをしている余裕もないことは、彼も分かっていた。

 再び歩を進めながら、自身の残した因縁を思い返す。


「俺が、決着を……」


 そして、そう呟く。

 弟であるカオンとは、昔から反りが合わなかった。だがそれも、ここまでくると滑稽だ。ゴウンはそう考えるが、笑うような気持ちにはならない。


「マキ、この先にカオンがいる」

「…………はいです」


 戦斧を手に取って、一つの大きな扉の前に立った。

 マキに声をかけ、彼女が頷くのを確認してからそれを押し開ける。


 するとそこには、弟――カオンの姿。



「やあ、会いたかったよ――――兄さん?」



 白々しいセリフを口にして、両手を広げる長身痩躯の優男。

 その傍らには、マリンの姿があった。



◆◇◆



「つ、強すぎる……!」

「化物か!? ――なんだコイツは!!」


 過半数を退けた頃からだろうか。

 暗殺部隊の者たちは、口々にそう言いながら敗走を始めた。それでも何人かは、なにかに突き動かされるように襲いかかってきたので、ひとまず眠ってもらう。

 手応えからして、ここに集まっているのは手練れではないのかもしれない。

 そう考えると、早く二人に合流しなければと、気が逸った。


 そんな時だ。


「やはり貴様は、規格外だな……」

「クリス、か……」


 暗殺部隊の中で唯一名を知る、少年が姿を現したのは。

 クリスは堂々と歩み寄り、他の暗殺部隊に下がるよう指示を出した。ボクはそれを見て、ゆっくりと手に持った短剣を下ろす。


「おや、戦わないのか?」

「そっちだって、戦うつもりはない、でしょ?」


 それを見て、小さく笑いながら少年はそう言った。

 彼の言葉にボクは、少しだけ首を傾げて答える。するとどうやら、こちらの読みは当たっていたらしく、クリスは覆面を外してその綺麗な顔を晒した。

 口角を上げて、不敵に微笑みながら。

 美形の少年は一言、こう語った。



「――――この状況ならば、降参しても仕方ない、だろうな」



 ナイフを投げ捨てて、両手を上げる。

 そんな彼の姿を見てから、他の暗殺部隊も同じ行動を取った。


「クリス、キミの目的を教えてほしい。キミは――」



 そんな光景を目の当たりにして、確信に変わったそれを口にする。



「どうやって、マリンのことを救うつもりなの……?」



 クリスは笑った。

 とても、悲しそうに。

 胸を押さえて、口の端から血を流しながら……。


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 千人の半分、五百人を一人三十秒で倒すとして、二五〇分かかりますね。四時間と少し。 また千人の暗殺部隊の維持ですが、一人あたりの食費が月十万円としても(一食千円程度の見積もり)食費だけで毎月…
2020/07/07 07:07 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ