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万年2位だからと勘当された少年、無自覚に無双する【WEB版】  作者: あざね
第7章

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2.夜は深まっていく。






「ゴウンさん、傷は大丈夫なんですか……?」

「あぁ、心配いらねぇ。出血はマキのお陰で治まったし、致命傷じゃないからな」


 ボクは傷だらけのゴウンさんとそんな言葉を交わす。

 マキの治癒魔法で回復した彼は、やせ我慢のようにも思える言葉を口にした。だが椅子に腰かけているものの、たしかに問題ないように感じられる。

 こちらでも確認したが、傷口は完全に塞がり、呪いの類もかけられていなかった。そのことが少しばかり意外ではあったが、不幸中の幸い、というやつか。


「いや、これはきっと――」


 そう考えているのが顔に出ていたのか、ゴウンさんがこう言った。


「あのガキがわざと、こうなるように仕向けたんだ。致命傷のように見せかけて、本当なら殺せるところを殺しはしなかった」

「それは、どういうことですか?」

「誘われてるんだよ、俺たちはな……」

「………………」


 それは実際に襲われた身だから抱ける確信だろうか。

 彼は渋い表情を浮かべながらも、ゆっくりと立ち上がった。


「クリスとか言ったか――あのガキは、俺のことを殺せる機会を何度も見逃している。どういうつもりかは分からねぇし、気に食わねぇが、何かあるはずだ」


 そして、部屋の奥からあの日に使っていた戦斧を取り出してくる。

 鋭い眼差しに宿っていたのは、決意だと思われた。


「悪いな、クレオ……。少しばかり手伝ってほしい」

「ゴウンさん……?」


 一度ゆっくりと目を閉じてから、彼は言う。



「これは俺の不始末であり、因縁だ。それを未来あるマキや、マリンのような子供に背負わせるのは間違っている。ここで、決着させないといけない……!」



 迷いを振り切るようにして。

 ボクは、それを受けて一つ大きく頷いた。


「分かりました。ボクも、大切な友人を助け出したい」

「おう、交渉成立だな」


 こちらの言葉に、ニッと笑みを浮かべるゴウンさん。

 その様子を見ていたマキは、胸に手を当てて祈るようにしてこう口を開いた。


「お父さん、僕も行くです」――と。


 そこにあるのは、彼女なりの決意。

 きっと理由はボクと同じ。マリンの一人の友人として、親友として、彼女のことを救い出さなければならないと、そう考えているのだ。

 そんな少女の気持ちを汲んだのか、父であるゴウンさんは大きく頷いた。


「危なくなったら、すぐに逃げるんだぞ?」

「むぅ、僕だってもう一人前の冒険者なのです! いつまでも、お父さんの後ろで震えていたような、子供じゃないですよ!!」

「へっ……。言うようになったじゃねぇか」

「これも全部、クレオさんたちのお陰なのです!」


 親子のそんなやり取りを見届けて。

 ボクは一つ息をついてから、こう宣言した。



「それじゃ、行きましょう! ゴウンさん、案内を頼みます!!」



◆◇◆



 マリンの部屋には、明かりがない。

 それはまさしく、今の少女の心を表しているようでもあった。


「わたくしは、もう……」


 口から出るのは、同じ文言ばかり。

 窓の外に浮かぶ月を見上げて、それが嘲笑うかのような三日月になっているのを見て、マリンは静かに己の行いを恥じるのだった。

 呪術のせいにしてはいけない。

 あれはキッカケにしか過ぎないのだから。


「わたくしは、結局お父様に逆らうのが怖かった」


 そうだった。

 あの瞬間に少女の脳裏によぎったのは、間違いなくカオンの顔。

 ここでその力に逆らえば、自分の身が危ないのだと、そう直感したのだ。だからこそ、ゴウンに刃を突き立てた。死には至らぬとも、クリスがなにかを施していると、マリンは考える。そして最悪の事態を想像しては、涙を流すのだった。


 なにもかもを失った、と。


 今までの努力も、なにもかもが泡沫と消えていく。

 クレオから向けられた笑顔も、マキから与えられた温かさも。


「………………」


 なにもかも失った。

 マリンの瞳から、光が失われていく。

 頬を伝う涙も、次第に回数を減らしていった。



 彼女の胸に宿るのは諦念のみ。

 夜は更けていく。それは、マリンの心のように暗く、深く……。


 


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