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万年2位だからと勘当された少年、無自覚に無双する【WEB版】  作者: あざね
第6章

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5.別れと、暗殺者の思い。







 ――少女は、見えない鎖に繋がれていた。

 それは一種の呪いと呼んで、間違いなかっただろう。

 しかし後に少女は成長し、聖女と呼ばれるようになった。呪いをその身に宿した聖女という、皮肉な存在。その身を蝕む、一族の都合のいい傀儡としての呪い。


「わたくし、は……!」


 その少女――マリンはいま、自身の手から零れ落ちたナイフを見て震えている。

 そして、膝をつき泣き崩れた。自分がしでかしたことの大きさに、恐怖を覚えたのである。たとえ操られていたとしても、たとえ自身の意思に反していても。

 目の前に蹲る彼を刺したのは、他でもない自分だったから。


「ゴウンさん! マキ、治癒魔法を!!」

「は、はいです! お父さん!!」


 二人の友人は、彼女を残して行動に移った。

 それをマリンは呆然として見つめる。

 そして思うのだ。



「もう、わたくしは――」



 ――この輪の中には戻れない、と。


 幸せだった。

 今まで経験したことのない、温かさだった。

 それなのに、自分の手で壊してしまったのだ。その心の揺れを見逃さず、背後から少年の声が聞こえた。それは、逃げ出したい彼女を誘うそれ。


「さぁ、お嬢様。こちらへ……」


 もはや、彼女に意思などない。

 気付けば踵を返して、ゆっくりと歩き出していた。ただ、一言――。



「ごめん、なさい……!」



 それだけを、残して。


「マリン……」



 少年――クレオは、それを聞いて振り返る。

 誰もいなくなった場所を見て、少女の名前を口にした。


「………………!」



 そして、拳を握り締める。

 歯を食いしばって、怒りに表情を歪ませた。


 口にするのは、憎き相手の名前。

 それは――。




「……カオン・シンデリウスッ!」



 渦を巻くような、温い風が吹き抜ける。

 それが止んだ時に、きっと戦いの火蓋は切って落とされたのだ。



 

◆◇◆




 クリスは抜け殻のようになったマリンを連れて、足早に歩いていた。

 ちらりと振り返り、その空虚な瞳を見る。

 そして、その都度――。



「………………」



 唇を噛んだ。

 血が滲み出して、口内に鉄の味が広がっていく。

 少年の心の内にあるのは、いかなものであろうか、それは分からない。だが、その時に少年の口からこぼれた言葉は、一つの答えを示していた。



「必ず、私が――シンデリウスを壊します」




 強い決意を持った響き。

 それは、どこか遠くの約束を眺めるようなものだった。



 


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