4.呪いの完成。
「カカッ――なるほど、な。魔法による、身体能力の強化か……」
大の字に転がったクリスは愉快そうに笑いながら、そう判断を述べた。
そこに敗北の悔しさなどは感じられない。むしろ清々しいと、そう思っているように感じられ、ますますこの少年の考えが読めなくなっていた。
ボクは彼に注意を払いながら、ひとまずマリンとマキ、そしてゴウンさんのもとへと向かう。三人は比較的落ち着いており、無言で頷いてみせた。
「……マリン。もしかして、クリスのこと知ってる?」
「………………」
そんな中で、聖女に訊ねる。
すると彼女は押し黙り、目を伏せた。
「クレオ、アイツのことは俺も分かる。シンデリウスの暗殺部隊、その一人だ」
「暗殺、部隊……?」
沈黙が続くと、代わりにゴウンさんがそう口にする。
ボクは剣呑とした単語に、思わず眉間に皺を寄せてしまった。それを見て彼は深呼吸一つ、マキに申し訳なさそうに話し始める。
「あぁ、そうだ……。シンデリウス家は元々、王家からの暗殺依頼を請け負って取り立てられた貴族。それが裏では、今でも色濃く残っているんだ」
「…………!」
その明かされた事実に、息を呑んだ。
ボクの顔を見て、どこか呆れたようにゴウンさんは続ける。
「そんな成り立ちのせいもあってか、歪んじまってるんだよ。特に俺の親父や、その影響を受けたカオンなんかは――言っちゃ悪いが、破綻している」
その言葉に、マリンは顔を覆って泣き始めた。
ボクはあまりのことに言葉を失う。場に再びの沈黙が降りたち、誰もが難しい表情を浮かべていた――だがその沈黙を一人、破る者がいた。
暗殺部隊の少年――クリスだ。
「その通り! そして今、この時――我が呪いは、一つの完成を迎える!!」
彼は、額から血を流しながら立ち上がる。
そして右腕を前に突き出し、拳を握り締めた。その瞬間――。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
切り裂くような悲鳴が上がった。
その声の主は――。
「マリン!?」
――マリン・シンデリウス。
彼女は苦悶の表情を浮かべて、身体を震わせている。喉を掻き毟り、目を充血させ、大粒の涙を流し、最後には吐瀉した。
その異様さにボクたちは呆気に取られ、ほんの僅かな隙が生まれる。
それが、致命的だった。
「――!? ゴウンさん、危ない!!」
マリンは懐から護身用のナイフを取り出し、彼へと迫る。
そして――。
「かふっ……!」
それは、深々と彼の腹部に突き刺さっていた。




