3.最速の戦い。
「ゴウンさん!?」
玄関から出てきたのは、眠っているはずの彼だった。
しかも、その腕には二人の少女を拘束している。苦悶の表情を浮かべながら、その屈強な腕に力を込めていた。マリンとマキは、困惑と恐怖で顔を歪めている。
ボクは背後の少年に警戒しつつ、ゴウンさんをしっかりと観察した。
するとすぐに、あることに気付く。
「この、魔力の流れは――!」
それは、一種の空気の流れのようなもの。
クリスから出た魔力が、ゴウンさんに向かっていた。
「呪術……!」
「ご明察だな。やはり、ここで殺すには惜しい」
ボクがそれを口にすると、少年は静かにそう口にする。
呪術――それは魔法の一つのカテゴリーであるが、同時に独自の進化を遂げたもの。普通の魔力運用はせず、呪いという形にして他者へ不利益を与えることを目的とされていた。今回はその中でも傀儡術と呼ばれるものだろう。
「いま、その男は私の駒だ。さぁ――どうする、クレオ?」
クリスはこちらを試すようにそう言った。
たしかに、これは同時に三人を人質に取られたようなものである。ボクが圧倒的に不利な状況であり、形勢逆転といくには困難に思われた。
それを理解してか、少年の口調は余裕に満ちている。
だが、ボクには一つの手があった。
それは――。
「悪いね、クリス。ボクは――」
学園時代に、幅広く魔法を修めていてよかった。
そう思い、手を横に払う。すると文字通り、糸の切れた操り人形のように――。
「なに……!?」
「ボクは呪術もちょっとだけ得意なんだ」
ゴウンさんは、その場に倒れた。
ボクは少年の方へと振り返って短剣を構える。
「貴様、解呪したのか!? ――私の傀儡術を!!」
「素早さではボクより上だけど、呪術においてはこっちが上だったみたいだね」
「……………………」
プライドが傷付けられたのか、クリスはその眼つきを鋭くした。
しかし、どこか納得したように頷く。
「いや、これで良い。ならば貴様の力を計るとしよう……!」
そして、再びナイフを構えた。
彼には彼なりの考えがあるようだが、それがなにかは分からない。しかし、こちらに向かってくるというのなら、ボクはそれを相手にしよう。
そう考えて、ボクは静かに短剣を構えつつ――小さく魔法を詠唱した。
「行くぞ、クレオ!!」
直後にクリスがそう叫んで、ボクへと迫る。
それを真正面から受け止めて思うのは、やはりその速度は凄まじいということ、だった。学園にもこれ程の素早さを秘めた者はいない。
正真正銘――ここからは、最速の戦い。
だが、ボクには策があった。
少年を跳ね飛ばしてから、一言こう告げる。
「ごめんね。あまり時間はかけていられないんだ――次で終わらせよう!」
「なに……!?」
少年は距離を取って体勢を整えながらそう言った。
そこに向かってボクは駆け出す。彼もまた真正面からぶつかり合って――。
「な、そん――な!?」
ボクは確実に『素早さ』で、勝利した。
クリスにとっては、なにが起こったのか理解できなかっただろう。
「ボクの、勝ちだ……!」




