1.非常事態。
「きょ、今日はクレオも来るのですね!」
「ごめんね、突然に押しかける形になっちゃって」
「全然大丈夫なのですよ! きっと、お父さんも喜んでくれるです!」
怪しい声の主と遭遇した翌日。
クエストを終えたボクとマリン、そしてマキの三人はオルザール宅を目指していた。本来ならば帰省の日ではないのだが、あのようなことがあったのだ。
警戒しておくに越したことはない。
ボク程度の力でも、ないよりはマシというところだった。
「エリオさんとキーンも連れてきたかったけど、大人数になるとゴウンさんに迷惑がかかるかもだし。その辺は仕方ないかなぁ……」
事情を説明した上で、戦力を整えようとも考えた。
しかしながら、不用意に危機感を煽るのも悪いと考えたのである。そのため今回は二人の参加はなし。マリンたちのことは、ボクとゴウンさんで守らなければならなかった。
「どうしたですか? クレオさん、ずっと難しい顔してるです」
「え、あぁ……。大丈夫、なんでもないよ」
考え込んでいると、マキがこちらを覗きこんでくる。
ボクは急に現われた円らな瞳に驚くが、すぐに切り替えて少女の頭を撫でた。
「それにしても、二人はずいぶん仲が良くなったんだね」
そして、大きく話題を変えることにする。
もうすぐでオルザール宅に到着するのだが、その場を繋ぐためだ。
「えぇ、そうですわね。わたくしとマキには、共通点がありますの」
「へぇ~! 共通点、か」
ボクがそう答えると、マキがマリンの言葉を引き継ぐ。
「ですね! ――もっとも、それをクレオさんに話すわけにはいかないですけど」
「え、どうして……?」
その言葉に、ボクは首を傾げた。
すると二人の少女は互いに顔を見合わせ、呆れたように首を左右に振る。
「気付かないのは、クレオらしいですわ」
「ですね。これは、苦労するです」
「え……、え?」
ボクは頭の上に疑問符を浮かべ、彼女たちの表情を見た。
しかし結局、答えは与えられず仕舞い。そうこうしているうちに、ボクたちは目的地に辿り着くのだった。
「あれ、お父さんはまだ帰ってないみたいです」
玄関の施錠を確認して、マキがそう言う。
彼女曰く、ゴウンさんはいつもなら昼過ぎに帰宅しているはずとのこと。しかし、今日はどういったわけか、その様子が見受けられなかった。
少しだけ、嫌な予感がする。
しかし杞憂だと、そう自分に言い聞かせた。だが――。
「…………クレオ」
次の瞬間に背後から聞こえた声に、息を呑んだ。
振り返るとそこには、ゴウンさんの姿。
しかし――。
「お父さん!?」
「ゴウンさん!?」
ボクとマキは即座に駆け寄る。
何故なら、目の前に現われた彼は――。
「すぐに、逃げろ……!」
全身から、おびただしい量の血を流し。
息も絶え絶えに、そう口にしていたのだから。




