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万年2位だからと勘当された少年、無自覚に無双する【WEB版】  作者: あざね
第5章

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4.マリンとゴウン。








『いいか、マリン。分かっているな?』

『はい、お父様……』


 幼いマリンは周囲を大人に囲まれ、小さくなっている。

 父であるカオン・シンデリウスは特に厳しく、常に叱責するように、少女に接していた。マリンの中にあるカオンへの気持ちは、恐怖以外になにもない。

 逆らってはいけない存在。

 逆らっては、自身の命にかかわるかもしれない。


『お前は賢いからね。あの愚かなゴウンのようにはならないだろう?』

『はい……』


 そんな父であるカオンが、何度も口にしたのは伯父の名前。

 もっともすでに廃嫡されて、シンデリウス家とはもはや縁がないと聞かされていた。だがそれでも、カオンや親族たちは、ゴウンの行いのすべてを一族の汚点と捉えているらしい。事ある毎に、今のシンデリウス家の苦境はゴウンのせいだ、と。

 その場にはいない、伯父の名前を貶すのだった。


『マリン――あぁ、愛しき私の娘。お前は、私の言う通りに動けばいい』


 一転して、優しさを装った声で話すカオン。

 そんな彼に寒気を覚えながらも、マリンは静かに頷くのだ。

 そして、またも同じ言葉を繰り返す。



『はい、お父様』――と。





「あの方が、伯父様――ゴウン・オルザール」


 客室で一人、ベッドに身を横たえながらマリンは呟いた。

 まさかマキの父親が、子供の頃から話に聞いていた伯父であるとは、思いもしなかった。反応を見る限り、どうやら彼の方もマリンの素性には気付いているらしい。その上で平静を装って過ごし、今に至っていた。


「話に聞いていたような、横柄な方ではない……けど」


 身を起こし、窓の外の月を見る。

 浮かんでいるのは満月。それはまるで、今のゴウンを表すようであった。

 そして、ふっとマリンが息をつこうとした時――。


「すまない。いま、少しだけ話いいか?」

「え……っ!」


 ドア越しに、彼の声が聞こえた。

 どこか緊張したようなそれに、しかしマリンもまた身を固くする。脳裏によぎるのは、親族が口々に発していた罵詈雑言の数々。

 油断してはならない。

 マリンは、唾を呑み込みそう考えた。


「えぇ、部屋の中には入れませんけれども」

「はは……。それでもいいさ、ありがとうな」


 そのため、最大限の警戒を持って返す。

 するとゴウンは意外なことに、小さく笑ってから感謝を口にした。


「…………なんの、用ですの?」


 そのことに違和感を抱きながら、マリンは訊ねる。

 その問いを聞いたゴウンは、自嘲気味にこう言うのだった。


「いや、な……。お前さんにはきっと、苦労をかけただろうから、それを謝りたかったんだ。カオンは融通の利かない野郎だっただろ?」

「………………」


 それは、しかし同時に温かな色を感じさせる。

 言い方はそうでもないが、どこかマリンへの気遣いもあった。それを受けた少女はしばし黙って、彼を試すように意地悪な答えを口にする。


「えぇ、とても。わたくしが、どれだけ苦しかったか……」

「そうか。それは、本当に済まなかった」


 するとゴウンは、心の底から落ち込んだようにそう漏らした。

 だが、すぐに切り替えたように言うのだ。



「マキと、友達になってくれて――――ありがとう、な」



 それを聞いて、マリンは息を呑んだ。

 この人はもしかしたら、本当は自分の思うような人ではないのでは、と。

 そのことを確かめようとした――が、それより先にゴウンはこう言って去った。



「それじゃ、今日はもう遅い。また明日な」

「え、あの……!」



 呼び止める間もない。

 マリンが立ち上がる頃には、もうその気配は消えていた。


「…………なん、なんですの」



 一人残された彼女は、うつむいて拳を震わせる。

 しかし、その日の出来事は深く胸に刻まれたのだった。


 


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