1.マキとマリン。
「そうですわ。慎重に、ゆっくり――深呼吸して、魔力を高めるのですわ」
「ふぅ~……!」
あの騒動から一週間が経過した。
その解決の際にマキが助け舟を出したことから、少女とマリンはかなり親しくなっている。それ以外にもなにか、共感する部分があるのか、ずいぶんと仲が良い。
「ふぅ……!」
「いいですわね。マキはとても筋がいいですわ!」
「あはは! ありがとうなのです!」
いまは治癒魔法のエキスパートであるマリンが、マキに手解きをしているところだった。魔力制御の実技についてはボクに分があるけれども、治癒魔法の実践では聖女と呼ばれる彼女の右に出る者はいないだろう。
だから、こちらは助けを求められない限りは見守ることにしていた。
それに何よりも、マリンに友人が出来るのは素直に嬉しい。
「良かったね、二人とも」
ボクはそう呟いた。
出会った頃のマリンは、いつも一人で泣いているような女の子だったのだ。
学園に入ってからも言葉を交わすのは、ボク以外にアルナとリリアナ――とは言っても、二人とは常に口喧嘩をしている印象だったけど。
それだから、尚のこと嬉しい。
友人の一人として、彼女の幸せを心から祝福していた。
「でも、いつまでここにいるの? マリン」
「……ん。いつまで、とは?」
しかしその反面、心配なこともある。
それというのもマリンの実家――シンデリウス家のことだった。あの家は少しばかり特殊なところで、今ごろはマリンのことを血眼になって探しているだろう。
首を傾げる彼女に、ボクはこう言った。
「家のこと――特に、マリンのお父様は心配してるんじゃないのかな」
すると、聖女はこう答える。
「お気遣い感謝いたしますわ。でも、こちらの方があちらより居心地がいいのです。誰にも監視されることなく、伸び伸びできますから……」
「監視……?」
「いえ、気にしないでくださいまし!」
なにやら不穏な言葉に、ボクは眉をひそめた。
しかし彼女が笑みを浮かべたので、深くは追及しないことにする。
「そっか……。なら、マリンの気が済むまでいたら良いよ」
「ありがとうございます、クレオ」
そう言うと、彼女は再びマキの方へと振り返った。
「さてさて、それでは訓練を再開いたしますわよ!」
「はい! お願いしますです!」
そして、マキの治癒魔法の訓練を始める。
マキの方はそれに素直に従い、時折笑い合いながら、指導を受けていた。その姿はさながら本物の姉妹のようであり、見ていて微笑ましいもの。
ボクは一つ息をついて、こう思った。
「こんな日々が、続けば良いな」――と。