6.頑張る理由。
「ごめんなざいでずわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」
ギルドには一人の少女――マリンの泣き叫ぶ声が響き渡っていた。
それは許しを請うものであり、その対象はボク。まさか、ここまで彼女が取り乱すとは思ってもみなかったため、どうしても困惑してしまった。
談話室にいる他の冒険者はみな、何事かとこっちを見ている。
「いや……。うん、分かったから泣き止んでよ」
「ゆるじでぐだざいまじぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
苦笑いしつつボクはマリンにそう言うのだが、彼女は号泣しながら謝罪を続けた。後方に控えるキーンとエリオ、そしてマキの三人は目を丸くしている。
というか、引いている。
ドン引きだった。
「あの、クレオさんは何を言ったのです?」
「え……あー、うん」
そんな中、マキが服の袖を引きながら上目遣いに訊いてきた。
そこに至ってボクは、ダンジョンでマリンに告げた言葉――彼女が泣き出す、直前のそれを思い出す。それというのは、呆れて口にしたこれだった。
『ボク……。マリンのことが嫌いになりそうだよ』
これを聞いた直後、聖女と呼ばれる少女は激しく取り乱した。
ダンジョン内でも泣き叫び、いまだにそれが続いている。
どうしたものかと、そう考えていると――。
「あぁ、なるほどなのです。それは泣いてしまうかもですね」
「マキは、理由が分かるの?」
「はいです!」
泣き声で少し聞き取りにくいが、マキは小さく笑いながらそう言った。
そして、ゆっくりとマリンのもとへと歩み寄る。
「あの、マリンさん……?」
「じんでわびまず――――ふえぇ?」
「大好きな人に嫌われそうになったら、泣きたくなりますです。僕もマリンさんの気持ちが、すごく分かるですよ!」
「あ、貴女は……?」
マキが、へたり込むマリンの頭を撫でる。
「マキ・オルザールです! そして、マリンさんとは似た者同士なのですよ?」
「似た者同士――ということは、貴女も?」
「はいなのです!」
少しずつ冷静さを取り戻しながら、マキの言葉を聞く聖女。
そんな彼女に、マキは諭すようにこう言った。
「過去の失敗は消せません。でも、これからを頑張ることはできるはずなのです! マリンさんもきっと、そうやって頑張ってきたはずなのですよね?」
「………………はい。頑張ってきましたわ」
頷くマリン。
「わたくし、クレオに認めてもらいたくて、頑張ったんですの……」
そして、とても小さな声でそう口にするのだった。
それを聞いてマキは頷く。こちらを振り返って、小首を傾げた。
「クレオさん……。今回は、許してあげてくださいませんか?」
少女は優しい目をして、そう言う。
なるほど。そこでようやく、ボクはマリンの行為の意味が分かった。
だから、今ならちゃんと伝えることができる。ボクが怒った理由を……。
「ねぇ、マリン。……これからは、無茶したらダメだよ?」
膝をついて、彼女と視線の高さを合わせて。
ボクが怒った理由――それは、他の人に迷惑と心配をかけたから。きっと、今のマリンなら、それを理解してくれるはずだった。
「マリンが頑張ってるの、ボクは知ってるから。次からは、一人で危険なところに行ったらダメだよ?」
「クレオ……!」
すると、彼女はハッとした顔になり、また一筋の涙を流す。
続けて出てきたのは、さっきまでのような取り乱したそれではなく。
「申し訳、ございませんでしたわ……」
深い反省のこもった、丁寧な謝罪だった。