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2.キーンの魔法、早速のピンチ。








「え、こんな強い魔物の討伐クエスト――大丈夫なの? キーン」

「大丈夫さ。なんて言ったって、私はそんじょそこらの魔法使いではないからね! 生まれが違えば、きっと王宮魔法使いになっていただろう」

「王宮魔法使いかぁ……。リリアナ、元気かな……」


 ひとまず紹介された宿で夜を明かして、翌日の昼。

 ボクはダンジョンに向かう最中にキーンの話を聞いて、魔法学で1位を取っていた幼馴染みの少女を思い出していた。王宮魔法使いとは、王都立学園の魔法学で優秀な成績――すなわち、首席を取った者の就職先だ。安定した将来が約束されている、魔法を得意とする者の憧れの場所である。


「ところで、クレオ。キミのクラスは何なんだい?」

「え、クラス……?」


 過去に思いを馳せていると、不意にそう訊ねられた。

 意味を理解できずにボクがポカンとしていると、キーンは呆れたように肩をすくめる。そして、こちらの腰にあるものを指差して、こう言うのだった。


「キミは魔法使いだろう? それなのに、どうして剣を携えているんだい」

「え、あぁ……。これのこと、か」


 ボクは視線を落として、腰元の剣を見る。

 これは朝早くに、武器屋で購入したものだった。たしかにボクは魔法使いとしても戦えるけど、剣術も苦手なわけではない。

 そんなわけで、戦闘手段は多いに越したことないだろう、と。

 安直な考えをもとに買ってきたのだった。


「ははは、ボクは剣にも覚えがあるからね」

「魔法使いの剣術、ねぇ……。まぁ、それなりに期待しておこう」


 それでも、いっぱしの剣士のような戦いが出来る保証はない。

 だから苦笑いしつつ答えると、キーンは二度ほど頷いてから納得した。彼の言う通りだろう。自分はあくまで、剣術でも二番手だったのだから。

 しかし、実力を惜しむつもりは毛頭なかった。

 この力が必要となった時には、全力で敵に立ち向かうことに決めている。


 自重なんてしない。

 家のしがらみがなくなったのだから、好きなように冒険者として生きるのだ。





 そうして、ダンジョンに潜ること数時間が経過した。

 目的の魔物がいる階層に辿り着き、慎重に周囲を確認する。薄暗い道を魔法の明かりで照らし、ゆっくりと進んでいった。

 すると数メイル先に、目的の魔物を発見する。


「キーン、いたよ。キングデイモンだ……!」

「あぁ、そうだな」


 ――キングデイモン。

 悪魔型の魔物、デイモン族の頂点に君臨する種だ。発達した肉体と大きな鉤爪を持ち、大きな翼をはためかせて空を飛ぶこともできる。

 そして何よりも、注意すべきなのは魔力の光弾を放つ――俗に【ショット】という攻撃だった。これは単純な魔力変換による攻撃なのだが、キングデイモンのそれは桁違いの威力を誇る。


「気付かれないように注意して、初撃必殺で仕留めるぞ!」

「分かった、それじゃ――」


 キーンの言葉に、ボクは大きく頷く。

 そして、剣を引き抜いた。


「囮は任せて!」

「あぁ、すぐに強力な魔法をぶちかましてやるさ!」


 ボクは自ら囮を買って出た。

 この状況、魔法を専門にしているキーンに後方を任せるのが無難だろう。だとすれば、こちらに出来る最善手は相手の注意を引き付けることだった。

 意識共有も問題なく済ませて、ボクはキングデイモンにその身を晒す。

 すると、悪魔型の魔物は咆哮を上げて【ショット】を打ち込んできた。


「おっと、こっちだよ!」


 しかしボクは、ひらりとそれを躱して。

 挑発するようにキングデイモンの周囲で、細かく動き回った。そうすると相手も混乱してくるのか、乱雑な打撃を周囲にぶちかます。

 それもまた回避して、ボクはちらりとキーンの方へと視線を投げた。

 どうやら、ちょうど魔法の詠唱が終わったようだ。


「クレオ!」

「分かった!」


 互いに声をかけ合う。

 そして、こっちの離脱と同時にキーンが杖を大きく振りかざした。


「燃え尽きろ――【エンシェントフレイム】!!」


 それは、炎系最強の魔法。

 古代の炎を呼び起こし、敵を焼き殺す魔法。

 宮廷魔法使いになれるはずだ、と――そう自称するに相応しいそれだった。魔法使いの格としては、間違いなくキーンの方が上だろう。

 リリアナには、少しだけ及ばないかもしれないけど……。


「ふっふっふ、どうだクレオ! 私の大魔法は!」

「うん、凄いよキーン!」

「はっはっは!!」


 ボクが持ち上げると、彼は嬉しそうに背を逸らしながら笑った。

 そんな得意げな仲間の様子を見て、どこかおかしくなる。

 自然と笑みがこぼれてしまった。


「さて、これでクエストは終了だ。以降クレオは私の指示に従うように――」


 そして、キーンがなにかを言おうとした――その時だ。



 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!



 なにか、大きな地響きが聞こえたのは。


「いまの、いったい――」


 ボクたちは音のした方を見る。

 すると、薄ぐらい闇の中から現れたのは……。



「おい、マジかよ……!?」



 キーンが声を震わせた。

 なぜなら姿を現した魔物、それはある種で絶望的なものだったから。



「レライエ……!」



 それは、スケルトン族の王。

 魔法に完全な耐性を持つ、相性最悪な敵だった。



 


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[良い点] 面白いです。頑張って下さい。
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