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万年2位だからと勘当された少年、無自覚に無双する【WEB版】  作者: あざね
第4章

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5.あの時とは違う。






 ――数時間前のこと。

 オルザール宅からギルドへ向かうと、そこには人だかりができていた。


「どうしたのですかね?」

「なにか、事件でもあったのかな……」


 ボクとマキは互いに顔を見合わせて、首を傾げる。

 様々な人が行き来するギルドで問題が発生するのは、たしかに日常茶飯事だ。しかし今回のこれは、どこか雰囲気が違う。

 いつもなら聞こえる喧騒はなく、そこにいる人すべてが困り果てていた。

 何事かと思い、ボクは受付へと赴く。


「あぁ、クレオさん。ちょうど良かったよ!」

「え、どうしたんですか? リールさん」


 すると受付担当者――リールさんは、ホッとしたようにそう言った。


「キミの知り合いだって女の子が、ダンジョンに一人で向かってしまったんだよ。見たところ治癒師だし、一人では危険だって、みんなで止めたんだけど……」

「え、それってもしかして――」


 そして、語られた内容から察する。

 ボクの知り合いで、治癒を専門にするのは一人しかしない。


「クレオさん!?」

「マキはキーンとエリオさんに声をかけて! まずはボクが行くから!!」


 そうなった瞬間に、駆け出していた。

 ダンジョンへと向かって。





 そしていま、ボクはマリンに手を差し伸べていた。

 周囲には、それなりの強さを誇る魔物の群れ。その只中で、尻餅をついた幼馴染みの一人である彼女は、唖然としてこちらを見上げていた。


「ク、レオ……。どうして?」

「いまは、そんなことどうでも良いよ。とりあえず、立てる?」

「え、えぇ……立てますわ」


 短く言葉を交わすと、マリンはボクの手を取って立ち上がる。

 足をほんの少しだけ気にしているところから、怪我をしたのだと察した。治癒魔法にも詠唱は必要だ。しかしこの状況では、それに手をかける時間がない。


「マリンは自分の怪我を治してて。ボクは――」


 剣を構えて、ボクは深呼吸をした。

 短く魔法詠唱を行い、意識をそれへと持っていく。

 するとそこには、炎をまとった剣が誕生した。俗にいう魔法剣というやつだ。今回は威力を上げるため、火属性のエンチャントを施した。


 そこで改めて、魔物の群れに目を向ける。


「こいつらは、ボクが引き受ける!」


 そして、足に瞬間の力を込めて――駆け出した。

 まずは手前のワイバーンに肉薄し、その胴体を一刀両断する。次いでは大型のオークの、醜く肥大化した肉体に魔法剣を突き立てた。

 それぞれが断末魔を上げる最中にも、ボクは多くの魔物を屠っていく。


 マリンを庇いながら。

 それはまるで、幼い頃のある日を思い出すようだった。



◆◇◆



 マリンは泣いていた。

 他の子供に囲まれ、暴力を振るわれて。

 自分が悪いわけではないのに、ずっと謝罪を口にしていた。


『やめろーっ!』


 そこにやってきたのは、クレオだった。

 彼はいじめっ子たちを一人で追い返すと、マリンに微笑みかける。そしていつものように、手を差し伸べてこう言うのだ。


『ほら、泣いてないで遊ぼうよ!』――と。





 マリンもまた、それを思い出していた。

 魔物を倒していく少年の後ろ姿は、あの時のままだ。そして今、最後の一体を魔素へと還し、少女のもとへと歩み寄ってくる。


「クレオ……!」


 彼女は歓喜した。

 心の底から、やはりこの少年は自分のヒーローなのだ、と。それを理解して、歓喜したのだった。だから、自ずと手を差し出そうとして。



 ――パシンっ!



 しかし、唐突な頬の痛みに唖然とした。

 いまクレオは、マリンの頬を叩いたのである。


「クレ、オ……?」


 恐るおそる彼を見る。

 するとそこにあったのは――。



「今回ばかりは、怒ってるよ? ――マリン」




 眉間に皺を寄せ、怒りを露わにする少年の表情であった。



 


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