1.それは幼い日の思い出。
『うぐ、えぐっ……!』
少女は一人で泣いていた。
少女は、いつも一人だったから。
友達はおらず、いつも一人で泣いているしか出来なかった。
『キミはどうして、そこで泣いているの?』
『え……?』
そんな時だった。
一人の少年が、その少女に声をかけてきた。
『みんな、あっちで遊んでるよ? 一緒に行こう』
『で、でも……わたくし、は……』
少年は手を差し伸べる。
しかし、それでも彼女は素直に頷けなかった。
理由は一つ。この少女は、その家柄のせいで酷いイジメに遭っていたのだ。過去に廃嫡となった者のせいで、他の貴族からは鼻摘まみ物にされていた。
それでも、この頃の二人には、その理由など分からない。
少女は自分が悪いのだ、と思った。
少年は周囲が悪いのだ、と思った。
ただそれだけのこと。
子供たちの善悪など結局、あやふやなものなのだから。
『行こうよ! ――ボクの名前は、クレオ・ファーシード!』
無邪気な笑みを浮かべて、少年はそう名乗った。
少女はそんな彼を見て、その眩しさを見て、思わず息を呑んだ。あまりにも輝かしいその存在感に、一瞬で魅了されたのだと、子供ながらに理解する。
『キミの、名前は……?』
『わ、わたくしは――』
その光に、少女はおずおずと手を伸ばした。
そして――。
『マリン・シンデリウス、ですわ……』
少年がそれを掴む。
座り込んだままの彼女を引き起こして、また満面の笑みを浮かべた。
『行こう、マリン!』
少年――クレオに手を引かれて、マリンは走り出す。
これがきっと、彼女にとっての始まりだったのかもしれない。