5.マリンとの遭遇。
「さて、今日も一日頑張ろうか! ――三人は、昨夜も遅かったの?」
「あぁ、気にしないでください」
「そうだな。クレオはクレオで良い」
「クレオさんはいつも通り、頑張って下さればなのです!」
「………………?」
朝になって、ボクが顔を出すと眠そうな三人が待っていた。
そして何があったのか訊ねようとすると、そんな答えが返ってくる。こちらは首を傾げることしかできずに、しかし何も訊き返すことはしなかった。
とにもかくにも、準備を済ませてギルドへ向かおう。
そう思って、談話室で話していた時だった。
「だから、ファーシードですわ! この宿に、ファーシードという少年は泊まっていないのか、と訊いているのです!」
そんな、女の子の声が聞こえたのは。
聞き覚えのあるそれと、口にしている名前にドキリとする。物陰からこっそり、その声のした方向――ちょうど受付の方だ――を覗き込んだ。
すると、そこにいたのは……。
「あ、あれは……!」
立っていたのは、縦巻ロールの髪が特徴的な少女。
その子の名前に覚えはある。だがボクには、どうして彼女がそこにいるのか理解が出来なかった。そうこうしているうちに、仲間の三人が同じように覗きこんでくる。そして、ハッキリとその言葉を聞いてしまうのだった。
「クレオ・ファーシードですわ! クレオ・ファーシードを出しなさい!!」
彼女――マリン・シンデリウスは、そう叫ぶように言う。
すると、キーンとエリオ、マキの三人が顔を見合わせるのが分かった。
「クレオ……」
「ファーシード、です……?」
「おい、クレオ。ファーシード、ってどういうことだ」
その中でも、元貴族であるエリオはボクに詰め寄る。
そして、その勢いに押されて、物陰から出てしまった。すると――。
「あ……!」
「あ、クレオ……!」
タイミング悪く、マリンと目があった。
すると彼女は感極まったように瞳を潤ませて、ボクに抱き付いてくる。次いで口にしたのは、学園時代に何度も否定したある言葉だった。
マリンは、本当に嬉しそうにこう口にする。
「あぁ、クレオ――」
他人の目など、まったく気にしないような。
そんな素振りで。
「わたくしの、愛しい婚約者!」――と。