6.蠢く。
本日(2025年8月12日)の18時から、新作投稿予定。
勘当された公爵令嬢の話です。
よろしくです。
「う……監視がすごいな」
ボクらは集落のうちの一つの民家に通されたが、決して歓迎されている雰囲気ではなかった。用意された食事などは来賓向けの整ったものだけど、出入り口には見張りの者が数名配置されている。それこそ、何か不審な行動を取れば命はない、とでも言わんばかりに。
キーンはアリアさんと一緒に、長と思しき人物のもとへ。
民家に残されているのはボクとリリアナにエスカリーテ、そしてミトスの四人。各々に何かを考えているようで、会話らしい会話はなかった。
「キーンたち、大丈夫かな……?」
そう思って窓から外を眺める。
そのちょうど先に、長の住まう家があるようだった。
数名のエルフが弓を手にして、忙しなく出入りを繰り返している。みな表情が殺気立っており、とても穏健な空気ではない。息の詰まる状況、というのが相応しい。
それを認めると、居心地の悪さが際立った。
考えないようにしていても、交渉の決裂という最悪の事態が脳裏をよぎる。そうなっては父の身体を癒すことはできず、ここまで足を運んだ意味も失われてしまうのだ。
「…………」
この旅の中で思わぬ事態は、思い返すだけでいくつもあったが。
それにしても、いったい何が起きているのだろう。ボクは自分の与り知らぬところで、何かが動いているように思えて仕方がなかった。
そして、オドの口にしていたあの言葉――。
「……神の愛、か」
あの時の記憶は、いまだに曖昧だ。
それでも印象的なのは、彼が嬉々として遺した謎のそれ。神という存在自体、そもそもが人魔戦争にさかのぼらなければならない。
その時代の人間である彼が口にしたのだから、意味はあるはずなのだけど――。
「分からない。……なにも」
――あぁ、ボクはいま苛立っている。
不吉な予感が胸の奥で蠢いて、留まり続けていた。
◆
――一方その頃。
長の家に足を踏み入れたキーンは、彼と対峙して冷や汗を流していた。いったいどのような小言が飛びだすのか。あるいは、それ以上のことか。
そう思っていると長は、青年の想定しない言葉を口にした。
「よくぞ、生きて帰ったな」
「……え?」
そこにあるのは、明確な歓喜の色。
驚くキーンに対して長はそのように告げた後、しかしすぐに言った。
「だが、少しばかり雲行きが悪い」
声を低くして、長はこのように続けるのだ。
「穢れを持つ者が、紛れ込みおったわ」――と。
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