1.第〇回! クレオさん会議!
「氷点に至れ! ――【ブライニクル】」
キーンが魔法を放つ。
氷魔法の最上級のそれは緩やかに、しかし確実に、魔物の命を凍り付かせた。だんだんと溶解していくと同時に、魔素へと還元されていく。
それを確認してから、ボクたちは各々に顔を見合わせた。
今日のクエストはこれで終わりだ。
「お疲れ様! やっぱり、キーンの魔法は頼りになるね!」
そして、ボクは今日の功労者であるエルフの青年に声をかけた。
すると彼は首を左右に振って、謙遜する。
「いえ、クレオさんが私たちをサポートしてくれているからです。エリオ一人では魔物を足止めできない。それに、マキの治癒魔法はクレオさんの助力なしには成り立たない――このパーティーで、もっとも重要な心臓たるは、貴方なのですよ?」
「え、嫌だなぁ……。そんなお世辞は要らないよ?」
その言葉に、こちらは頬を掻いて答えた。
たしかにボクは、みんなをサポートする機会が多い。それでも、そこまで言われるなんてこと、思ってもみなかった。
だって、ここにいるメンバーは各々に、自分の得意を持っている。
それが正直なところ、ボクには羨ましかった。
だけど、それでも良い。
ボクはボクに出来ることをすればいい。
その中で、好き勝手にさせてもらっているのだから、文句はなかった。
「さぁ! 冗談は程ほどにして、帰ろうか!」
仲間三人が、なにやら薄目でこちらを見ていたが、気にしない。
そう宣言すると、ボクは踵を返すのだった。
◆◇◆
「クレオさんは、寝たのか? ――マキ」
「はい。いつもの時間に、いつも通りお休みになったです!」
「本当に、規則正しい生活をするな。クレオは……」
――その日の夜である。
宿の談話室にて、月明かりのもとにキーン、エリオ、そしてマキの三人は集っていた。各々に寝巻に着替えてはいるものの、まだ眠るつもりはないらしい。
最後にマキが着席すると、ふっと息をついたのはキーンだった。
そして、こう口にする。
「……いや、凄すぎるだろ。クレオさん」
出てきたのは、パーティーのリーダーへ向けたものだった。
大きくうな垂れて、心の底から吐き出すように。
「あぁ、同感だな。クレオは自覚がないらしいが……」
「はいです。今日も、キーンさんに言われて、本気で困惑してたです」
すると、残り二人も同意して頷いた。
あの少年は無自覚に、恐ろしいことをやっている、と。
「さて、今日はどんな話が飛び出すやら……」
そこでキーンが、気持ちを切り替えるように言った。
この集まりは、クレオを除いた三人が時折に開いている意見交換会。その内容というのも、クレオという人物の謎や、その凄さを語り合うものだった。
出自も、経歴も不明。
されども、その実力は誰もが認める――本人を除いて。
そんな彼が行ったことを、各々の視点から報告し合うのが通例だった。もっとも、結局は『クレオさん半端ねぇ』という結論に落ち着くのだが。
「それじゃあ、今日は――マキから頼む」
「はいです……!」
エルフの青年に指名され、少女は頷く。
そして今宵もまた、クレオ伝説が共有され始めるのだった……。