1.早速の無自覚と、視線。
ドラゴンがブレスを吐く。
ボクはそれに対して、防御魔法で障壁を張った。目の前に張り出された薄い壁に沿って、炎が左右に拡散されていく。喰らえば骨まで消し炭になるとのことだけど、当たらなければどうということはなかった。
そして、そのブレスが止まれば、今度はボクの攻撃だ。
「とはいっても、剣は持ってきてないから――今回は魔法かな?」
ふっと息をついて、魔力を高める。
魔法学の分野においては、幼馴染みのリリアナに負けて2番手だった。けれども詠唱破棄だとか、その他にも上級魔法の大半は修めている。
今回はドラゴンの装甲――堅い鱗のことも考慮して、爆裂魔法が良いかな。
「さて、どれだけのダメージになるかな――【エクスプロージョン】!」
そう口にして、手をかざすと――ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!
魔法の威力を高めるロッドなどはないけれども、ドラゴンの上半身が吹き飛んだ。断末魔を上げる暇もなく、ドラゴンは魔素へと還っていく。
この魔素という欠片や結晶だが、ギルドに持って帰ると換金してくれるらしい。
ドラゴンから出た魔素――いくらくらいになるのかな?
「さて、今日はこれくらいにしておこうかな?」
ボクはバッグに入っている魔素を確認しつつ、そう独りごちた。
倒したのはデイモン十五体にヒュドラが八体、そして今のドラゴンを一体。初めての冒険でこの戦果なのだから、悪くない方だと思った。
それでは、そんな感じでギルドに戻ることにしよう。
意気揚々。
ボクはスキップに鼻歌まじり、帰路につくのだった。
しかし、気付いていなかったのだ。この初陣を、陰からこっそりと見ていた人物がいたことに……。
◆
「はえぇ……。こんな額になるんだぁ……」
ボクは換金を終えて、ギルドカードに刻まれた数字を見て驚いていた。
父から受け取った路銀はせいぜい、金貨十余枚。しかしながら、ボクが今回ダンジョンに潜ったことで得た報酬は金貨二十余枚だった。
金銭感覚については、あまり自信ないけれど少ない額ではないのは分かる。
なるほど、これなら生活もそれほど困らないだろう、そう思った。
「んー、あまり行きたくないけど、食事は摂らないとなぁ」
さてさて。
そんなわけでボクは続いて、初めて酒場という場所に向かうことにした。
まだ未成年なので酒は飲めないけれども、情報交換など、そういった場になっている。だとしたら、そこへ出向かないわけにはいかなかった。
これでも一応、冒険者の端くれになったわけだからね!
「いらっしゃいませー! ご注文はなんにしましょう?」
「あ、えっと。金貨五枚で食べられるだけ!」
「ききききききき、金貨五枚!?」
「え? どうかしましたか?」
「いえ、なんでも!!」
ボクが金を取り出して見せると、酒場の店員の女性はひっくり返りそうになった。
首を傾げていると、首を大きく左右に振りながら奥へ行ってしまう。いったいどうしたのだろうか、と思っていると、不意に声をかけられた。
「やあ、そこの少年。隣座っても良いかな?」
「ん、構いませんよ?」
声のした方を見ると、そこに立っていたのはフードを被った男性。ボクが答えると、おもむろにそれを取って、柔和な笑みを浮かべた顔を露わにした。
若いエルフのようだ。
長い耳に、短い金の髪。蒼の瞳には、不思議な魅力が詰まっている。
彼は隣に座ると、一つ二つ頷いてから、こう名乗った。
「私の名前はキーン・ディンローという。キミの名前は?」
男性――キーンは、店員に注文してからこちらを見る。
「クレオです。家名は――そんな、大層なものはありません」
「そうかい。つまりキミは、貧困層の出身、というわけか」
「はははは、そういうことで一つ!」
そこへ、飲み物が運ばれてくる。
ボクにはジュース、そしてキーンにはエールだった。
特別に示し合わせたわけでもないが、ボクらは互いに乾杯して、それを一気に飲み干す。するとキーンは、何度か頷いてから、こう訊いてきた。
「ところで、クレオは一人で冒険者を?」
「はい、今日なったばかりの新米です!」
「そうか! それなら、話が早い!」
ボクの返答に、キーンは素早くこちらの手を取る。
そして、こう提案してくるのだ。
「よければ、私の仲間になってくれないかい? 王都に出てきたは良いものの、どこのパーティーも人手は足りているらしくてね……」
少し悲しげに、頬を掻きながら。
しかし、それはボクにとってもありがたい申し出だった。
「こちらこそ、よろしくお願いします! ボクも、一人では不安だったので!!」
これは幸先がいいぞ!
キーンと握手を交わしながら、ボクは笑う。
その時だった。
「はい、お客様! 金貨五枚分の食事です!!」
「え……?」
「ん……?」
目の前に、ずらっと大量の料理が並べられたのは。
それを見て、キーンはこう言った。
「なぁ、クレオ。これは誰が食べるんだい……?」
「さ、さぁ……?」
――残すのはもったいないので、酒場にいた人全員で分けあいました。