8.聖女――マリン・シンデリウス。
「それで、まだクレオは見つかっていないのですね?」
「は、はいぃ。各国に調査団を派遣しているのですが――い、いや! それでも、もうじきあの愚かな息子の行方も分かりましょう!!」
「…………愚息? 愚かなのはダン・ファーシード、貴方だけでしょう」
「ひっ……!?」
謁見の間にて。
クレオの父――ダン・ファーシードは、リリアナに詰問されていた。そこに年長者としての威厳などなく、なんとも無様な姿を晒している。
助けを請うように、同席しているリリアナの父――すなわち国王、ライアスに視線を投げた。だがしかし、髭を蓄えて難しい顔をした彼もまた、娘と意見は同じようだ。首を左右に振って、ダンの醜態に大きなため息をついている。
控える大臣たちも、助け舟は出さない。
まさしく四面楚歌といった感じに、ダンの顔から血の気が引いていった。
「もう少し、もう少しだけ! いま少しだけお時間を! このダン・ファーシード、公爵家の誇りにかけてクレオを見つけ出してみせましょう!! ……だから、そのぉ……取り潰しだけはぁ……」
その言葉尻の情けないこと、この上なし。
今にも泣き出しそうになりながら、クレオの父は大きくうな垂れた。
そんな彼の姿を見て、呆れたようにリリアナはため息をつく。額に手を当てて、頭痛を必死にこらえていた。無能を相手にするのは本当に疲れる、と。
「分かりました。それでは――」
これ以上は話しても無駄だろう。
そう考えた王女は、ダンに退席を命じようとした。その時である。
「おーっほっほっほっほっほ! わたくしに、お任せいただけないかしら!」
「げ……」
甲高い笑い声と共に、一人の少女が謁見の間に入ってきたのは。
色素の薄い髪を左右でまとめ、強めに巻いている女の子だった。高飛車な性格をよく表すように吊り上った目には、金の光が宿っている。
背丈はリリアナと大差ないが、決定的に違うのはその身体の成熟具合だろうか。
そんな相手を見て、王女はさらに眉をしかめてこう言った。
「はぁ……。貴女は関係ないでしょう、マリン?」
それを受けて、闖入者である少女――マリンは、ニヤリと笑った。
「関係ないことありませんわ? 婚約者が行方不明となれば、わたくしが公爵家に協力するのも自明の理、というところでしょう」
「誰が、誰の婚約者ですか。まったく……」
「言葉にしなければ分かりませんか? わたくしと、クレオ――」
「王家はそれを認めていません。口を慎んでください」
「ふふふん? ずいぶん、余裕がない様子ですわね、王女様?」
「………………」
そして、そんなやり取り。
リリアナは大きく呆れて、またも大きなため息をついた。気持ちを切り替えるように目を閉じて、ゆっくりと眼差しをマリンという名の少女へ向ける。
「それで、マリンはファーシード公爵に協力したい、と?」
「いえ。ダン公爵のことはどうでも良いのですが、クレオの行方が気になって気が気でなかった、というのが本音ですわ」
「なるほど……。それで、当てはあるのですか?」
なんとも歯に衣着せぬ少女の会話に、とうとう涙を流すダン。
しかし、そんな彼に気など割かずにマリンはこう宣言した。
「灯台もと暗し、ですわ。あとは、わたくしにお任せを。そう、この――」
大仰に両手を広げて一回転し、ポーズを決めて。
「新時代の聖女と呼ばれる、わたくし――マリン・シンデリウスに!」
それを見て、また一つ。
大丈夫なのかコイツ、といったため息をつくリリアナであった。
https://ncode.syosetu.com/n5782gt/
短編→連載版です(下の方にリンクがあります)
面白ければ、ブクマや★評価などで応援いただけると幸いです。
以下テンプレ。
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームから評価など。
創作の励みとなります。
新作共々、応援よろしくお願いいたします。
<(_ _)>
そんでもって、大増量の書籍版もよろしくね!!