7.それはきっと、何気ない幸せ。
血が止めどなく溢れていた。
治癒魔法をかけても、それは収まる兆しをみせない。ボクのそれでは、やはり力不足であると痛感させられる。もしもここに、マリンがいたなら、とそう思った。
「良いんだ、気にすんな。クレオ……」
「そんな! あんな話を聞いて、無視できるわけがないじゃないですか!!」
彼は語ったのだ。
自分はマキの父親なのだ、と。
ゴウンはそれをひた隠しにして、不器用な自分なりのやり方で、娘のことを守り続けていた。そんな最後がこんな結末であっていいわけがない。
ボクは必死に治癒魔法をかけ続ける。
それでも、もう少しのところで届かないのだ。
必要なのはきっと、天賦の才、とでも言うべきものかもしれない。
「お、父さん……?」
その時だった。
ふらり、マキが傍らにやってきた。
仰向けに倒れる父を見て、彼女は瞳に涙を湛えている。
「うそ……。やだよぉ、こんなの……!」
そして、ついに涙をこぼしてそう言った。
ゴウンのその厚い胸板に触れて――。
「これは……!」
その、瞬間だ。
マキから大量の魔力が流れ出しているのに気付いた。
それは間違いない、治癒魔法にある特有の流れであり、その量はきっとあのマリンにも匹敵する。ボクはそう判断した直後に、マキの手に触れた。
「え、クレオ、さん……?」
「マキ。ゆっくり、ゆっくり深呼吸して……」
少女はきっと、その力に気付いていない。
だからそれの制御の仕方、使い方をボクが教える。補助するのだ。これでもボクは、魔力制御の実技でも2位だったのだから……!
そして、ゆっくりゴウンの目が閉じられた時。
周囲は優しい光が満ちていった。
◆
――数か月が経過した。
今ではマキも、その内に秘めている治癒の力を使いこなしている。ボクのパーティーには欠かせない、専門要員として活躍中だった。
「準備は出来た? ――マキ」
「はい! クレオさん!」
ボクが声をかけると、少女は満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。
しかし、その途中で振り返って手を振るのだ。
その視線の先には、彼女の家。
その玄関先に立っているのは、優しい父親の姿だった。
「行ってくるです! ――お父さん!!」
「おう、気を付けてな!」
それはきっと、何気ない日常の光景。
それでもきっと、彼にとってはかけがえのない光景だった。