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7.それはきっと、何気ない幸せ。






 血が止めどなく溢れていた。

 治癒魔法をかけても、それは収まる兆しをみせない。ボクのそれでは、やはり力不足であると痛感させられる。もしもここに、マリンがいたなら、とそう思った。


「良いんだ、気にすんな。クレオ……」

「そんな! あんな話を聞いて、無視できるわけがないじゃないですか!!」


 彼は語ったのだ。

 自分はマキの父親なのだ、と。

 ゴウンはそれをひた隠しにして、不器用な自分なりのやり方で、娘のことを守り続けていた。そんな最後がこんな結末であっていいわけがない。

 ボクは必死に治癒魔法をかけ続ける。

 それでも、もう少しのところで届かないのだ。


 必要なのはきっと、天賦の才、とでも言うべきものかもしれない。


「お、父さん……?」


 その時だった。

 ふらり、マキが傍らにやってきた。

 仰向けに倒れる父を見て、彼女は瞳に涙を湛えている。


「うそ……。やだよぉ、こんなの……!」


 そして、ついに涙をこぼしてそう言った。

 ゴウンのその厚い胸板に触れて――。


「これは……!」


 その、瞬間だ。

 マキから大量の魔力が流れ出しているのに気付いた。

 それは間違いない、治癒魔法にある特有の流れであり、その量はきっとあのマリンにも匹敵する。ボクはそう判断した直後に、マキの手に触れた。


「え、クレオ、さん……?」

「マキ。ゆっくり、ゆっくり深呼吸して……」


 少女はきっと、その力に気付いていない。

 だからそれの制御の仕方、使い方をボクが教える。補助するのだ。これでもボクは、魔力制御の実技でも2位だったのだから……!


 そして、ゆっくりゴウンの目が閉じられた時。

 周囲は優しい光が満ちていった。





 ――数か月が経過した。

 今ではマキも、その内に秘めている治癒の力を使いこなしている。ボクのパーティーには欠かせない、専門要員として活躍中だった。


「準備は出来た? ――マキ」

「はい! クレオさん!」


 ボクが声をかけると、少女は満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。

 しかし、その途中で振り返って手を振るのだ。


 その視線の先には、彼女の家。

 その玄関先に立っているのは、優しい父親の姿だった。





「行ってくるです! ――お父さん!!」

「おう、気を付けてな!」




 それはきっと、何気ない日常の光景。

 それでもきっと、彼にとってはかけがえのない光景だった。



 


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 力はあったんだし普通に守れたし普通の生活ができたろうに不器用なんてレベルじゃないぞ?ましてやその守りたい娘に暴力を振るうなんて。
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