7.人魔戦争時代の傑物。
生きてます(報告
――男は間違いなく、これまで戦った相手の中でも上位だった。
動きには洗練さの欠片もない。
それでも、圧倒的な身体能力で敵を封殺する。仮にアルナやエリオさんのように、剣を扱う技術を持っていたとしたら手を付けられない。
考えたくもなかった。
だって、このようなバケモノとしか言いようのない人間を知らないから。
「おらあああああああああああああああああああああああああああ!!」
「く、う……!?」
身体能力で劣るなら、ボクにできることは武器やあらゆる術を使うことだ。
剣術に体術、魔法に治癒術――その他にも、様々な分野に手を伸ばしたこと。そんな過去に感謝の念を覚えたのは初めてかもしれなかった。
オドの空を裂く拳を寸でのところで回避しながら、ボクは隙を探す。
しかし、そうこうしているうちにも相手は次の一撃を繰り出していた。
「どうした、オラァ!!」
「くそ!?」
このままではジリ貧だ。
それは分かっているのに、圧倒的な剛は柔を蹂躙する。
形勢は確実に不利へと傾いていた。いいや、もしかしたらすでに手遅れになっているのかもしれない。そんな不安が脳裏をよぎるが、どうにかその思考を振り解く。
弱気になっては駄目だ。
ここで負けたら、絶対に駄目なんだ。
「…………おい……!」
「え……?」
そう考えていた時だった。
「お前、ふざけんなよ……?」
オドが唐突に、攻撃の手を止めたのは。
ボクは意味が分からないままに距離を取って、剣を構え直した。
そうしていると彼はジッとこちらを睨み、そして静かにこう口にする。
「本気、だしてねぇだろ……!」――と。
それは、あまりに予想外の言葉。
ボクは眉をひそめて、彼の思考を読み取ろうとした。
しかし、それよりも先にオドは何かに勘付いたらしくため息をつくのだ。
「なるほど、な。死霊術師が言ってたのは、このことか」
「な、に……?」
まったくをもって、意味不明。
それでも、オドの中では何かの合点がいったらしい。
「教えてやるよ、クレオ。お前の先祖がどれだけ強かったか、な……!」
「な…………!?」
――ニヤリ、と。
彼の口角が歪んだと思った瞬間だった。
「が、は……!?」
ボクの腹部に、オドの拳が叩きこまれたのは。
「どうだ。見えなかったろ? これが、人魔戦争時代の力だ」
「げ、ほ……!?」
臓器が傷ついたのだろう。
ボクは血の塊を吐き出していた。
視界が歪んでいく。それでも、どうにか意識を保った。
「現代の人間は、ずいぶんと弱くなっちまったみたいだな。いいや、もっと正確にいえば――」
意識は保っていても、耳が遠くなっていく。
オドは何かを言っていたが、ハッキリと聞こえたのはそこまでだった。
ボクは呼吸をするのに必死で、戦闘どころではない。そんな状況を理解しているのだろう。オドはこちらの胸倉を掴むと、乱暴にこの身を放り投げた。
そして、言うのだ。
「……目覚めろ」――と。
聞き取れたのは、それだけだった。
相も変わらず意味不明で、ボクに何を要求しているのか分からない。ただ、
「負けたく、な……い…………」
この窮地において。
ボクの中にあった気持ちは、それだけだった。