4.死霊術師の域を超えた魔法。
「く、くそ……!? なんだって魔法使い二人相手に!!」
「こいつらバケモノか!?」
クレオが先を行き、残されたキーンとリリアナは背中合わせに山賊の相手をする。数にして三十余名といったところか。だがこの程度の相手なら、凄腕の魔法使いである彼らの相手ではなかった。
上級魔法など使う必要もない。
キーンは軽快に防御魔法を展開して時間を稼ぎ、リリアナが範囲魔法で一掃する。エスカリーテはその中で、補助魔法に徹していた。
「私たちをバケモノ扱いしていたら、クレオを見たら卒倒しますね」
「あはは……! それは、違いないです!」
逃げ出し始めた者もいる中、二人はそう軽口を言い合う。
このまま押し切れば、きっと勝利は近いはずだ。
しかし、これだけで済むとは思えない。
リリアナはそう考えたが、もう二人も同じだったらしい。
そのため山賊が散り散りになった瞬間、隙を突くように放たれたそれを即座に回避した。リリアナから見て右斜め前方。喰らえば即死であろう魔法を放った者は、そこにいた。
「ほう……? 完璧に隙を突いたと思ったがな」
「殺気が隠しきれていませんよ。二人とも、大丈夫ですか?」
「えぇ、私は無事です。エスカリーテさんは?」
「……大丈夫」
薄闇に紛れるように立つ相手を注視しつつ。
三人は、それぞれの無事を確認した。
「ずいぶんと戦い慣れているな。綺麗な見てくれをして、その実は傭兵か?」
「それはまた、嬉しい褒め言葉ですこと。ただ、残念ながら違いますね」
「ふむ。ならば、どこの所属だ……?」
敵の男は小さく笑いながら、そう訊いてくる。
対してリリアナは――。
「誇り高きガリア王の国宮廷魔法使い、リリアナです!」――と。
そう威風堂々と宣言するのだった。
王女とは名乗らない。己の力のみで手に入れた称号を口にした彼女は、いつでも魔法を放てるように構えながら相手の出方をうかがっていた。
すると、それを聞いた男は少しだけ黙った後に言う。
「あぁ、なるほど……?」
リリアナのことをひどく小馬鹿にした口振りで。
「つまりキミは、真実を知らぬ傀儡、ということか!」――と。
そして、その直後だった。
「なっ……!」
「リリアナさん、これは!?」
キーンも周囲の異様さを察知したらしい。
身構え、臨戦態勢へ移行した。すると――。
「う、あああああああああああああああああああ!!」
倒れ伏した山賊の数名が、野太い悲鳴を上げながら悶え始める。
そして、瞬く間に黒い靄に包まれていった。
「これは、いったい何が……?」
困惑するリリアナに対して、死霊術師と思しき男は告げる。
それはまるで、勝利宣言とも取れるものだった。
「さぁ……! 踊り狂え、真実の名のもとに蘇りし死者たちよ!!」
――次の瞬間。
靄が晴れた先に現れたのは、人ならざる漆黒の獣たちだった。
見たことのない、魔物。いいや、あれは魔獣と称するべきかもしれない。
「……二人とも。気を引き締めてください」
これは、一筋縄ではいかない。
そう改めて考え直し、リリアナは一度深く息を吐くのだった。




