6.決着の静寂。
「おらあああああああああああああああああああああああああああっ!?」
ゴウンが戦斧を振り下ろす。
大地を打った一撃は、それを大きく陥没させた。地響きが鳴り渡り、亀裂が広がっていく。ボクはマキを守りながら後退し、呼吸を整えた。
砂埃を吸い込まないよう気を付け、視界不良を避ける。
追撃はなかった。
「これは、想像以上――かな」
ボクはそう漏らす。
間違いない。ゴウン・オルザールの力は本物だった。
細かく言えば腕力や、それに伴った攻撃の破壊力は見たことがない。学園の中ではまず、出会うことのできなかったタイプの戦士。
無骨ながら、それでいて強固な戦いをする人物だった。
「どうした。怖気づいたのか?」
「少し、だけ……。でも、まだ始まったばかりです」
ニヤリ、笑みを浮かべる彼。
ボクは思わず本音を口にしながらも、どうしてか微笑み返していた。
圧倒的な破壊力を目の当たりにしたにもかかわらず。ボクは今までにない戦いに、少しだけ、本当に少しだけ胸を躍らせていた。
「へ……面白れぇ。約束してやるよ、お前が勝ったら――教えてやる」
「ありがとうございます、ゴウンさん」
「けっ……無駄に礼儀正しい野郎を見ると、昔を思い出すぜ」
「………………」
こちらの返答に、唾を吐き捨てるゴウン。
しかし、その言葉や態度に気を割いている暇はなかった。この人に勝つには、いかなる戦いをすればいいのか。それを考え続けるのだ。
彼が力なら、ボクは――。
「行くぜぇ! クレオォ!!」
絶叫が木霊する。
まるで獣のように、ボクへと向かってくるゴウン。
そして戦斧を大きく振りかぶって、技などない、そんな一撃を繰り出す。
「………………っ!」
――間一髪。
マキを押し退けつつ、それを回避したボクは向かって右に転がった。
そして、そこに勝機を見出すのだ。相手はたしかに、破壊力に限れば誰にも負けない。しかしそれ以外の部分では、ボクが上回っているはずだった!
「覚悟――!」
小さくそう口にして、ボクはゴウンの脇腹目がけて――。
◆◇◆
――男は、一人の女性に恋をした。
貴族である家柄に生まれながらにして、庶民――しかも貧困層の女性に、恋をしたのだ。そしてその気持ちは、彼女と触れ合う度、日増しに強くなる。
果たして、彼らは結ばれた。
男は貴族という地位を捨てて、その女性と共に生きると決めたのだ。
『ゴウンさん? ――女の子だったら、なんて名前にします?』
大きなお腹をさすりながら、女性は男に訊ねる。
それを聞いて彼は、今とは比べ物にならないほどに穏やかな表情でこう言った。
『そうだな。簡素だが、お前の名前に似た響きが良い。だから――』
男――ゴウンは、いずれ生まれる娘の名を口にした。
『この子の名前は――マキ、だ』
◆◇◆
剣が、深々とゴウンの脇腹を抉っていた。
防がれると思っていた一撃が、そのまま吸い込まれるように入ったのだ。
「ごふ……!」
ゴウンはその場に横倒しになる。
戦いの終わりは、静寂に包まれたものだった。