5.対峙する二人。
「く……! さすがに、数が多すぎるか!?」
決闘が開始され、大勢の冒険者に取り囲まれる。
身動きが取れなくなったボクらは、四人で背中を合わせて周囲を警戒していた。そのまま膠着状態が続く。こちらのパーティーで戦闘が出来るのは三人。
マキは治癒魔法の専門家とのことで、攻撃手段は持っていなかった。
そして同時に、他の冒険者の目の色がおかしいことに気付く。
全員が追い詰められているような。なにかに怯えているようでいて、必死な顔をしているのだった。そのことに眉をひそめていると、マキが言う。
「きっと、ゴウンさんは全員の弱みを握って、みんなを掌握してるです」
「弱み……?」
声だけで応えると、少女が頷くのが何となく分かった。
「はいです。ゴウンさんは配下を操るために、家族を人質に取ったりするです」
「外道が……! クレオ、そんなの許していいのか!?」
「エリオさん、落ち着いて!」
そして、告げられた言葉に思わず激昂する赤髪の剣士――エリオさん。
彼女が思わず前に踏み出そうとするが、それをどうにか押し止めた。なんの計画もなしに飛び出せば、それこそ相手の思う壺だ。
ボクは少し考え、一つの賭けを提案する。
「ねぇ、キーンとエリオさんにお願いがあるんだ」
それは、無策無謀にも近いもの。
だけど彼らは、ボクを真っすぐに見て頷くのだった。
◆◇◆
――男は卑劣と罵られようとも構わなかった。
ただ一人、自分が手に入れたい存在を、自分の手元で守ることが出来れば。それ以上に求めることなどなかった。富も名声も、何もかもそのために投げ捨てる。
それが、ゴウン・オルザールという男の考えだった。
「さて、どう動く? クレオ――」
戦斧を肩に担ぎ、人だかりを見る。
口元には不敵な笑みを浮かべて、必ずやってくるであろう少年を待った。
「一人でくるか、それとも――」
そこまで考えた時だ。
男は思わぬ展開に目を見張ることとなった。
「な、に……!?」
突如、自分の目の前に爆炎が巻き起こったのだ。
同時に彼らを取り囲んでいた冒険者が、一本の道を開くのが分かった。それはすなわち、クレオとその仲間が一点突破を図った、ということ。
「ほほう、お仲間もお仲間――ということか!」
舐めていた。
侮っていた。
多少の計算違いかもしれない。
それでも、なるほどクレオのパーティーが王都最強と謳われる理由は納得だった。その戦力は他の追随を許さない。
そして、他でもないそれを束ねる少年は……。
「ゴウン・オルザール――貴方に、話があります」
土煙の中から、彼が現れた。
傍らに一人の少女――マキを連れて。
「面白れぇ……。いいぜ、殺り合おうじゃねぇか!!」
男は戦斧を構える。
合図はない。しかし、互いに理解していた。
ここが、決戦の場であること。
そして、それは一瞬で終わりを迎えることを……。