4.助けを求める少年。
「あ、あの! 助けていただき、本当にありがとうございますっ!!」
「いや、いいよ。困っている人を見捨てるわけにはいかないし」
「ありがとうございます!!」
暴漢、あるいは山賊に襲われていた少年を助けると、彼は瞳を輝かせてこちらを見てきた。ミトスと名乗った少年は、こちらが止めているにもかかわらず何度も頭を下げる。
手入れをする機会がなかったかのような、ボサボサの黒色の髪。その前髪が金の瞳の片方を隠していた。背丈はエスカリーテと差がなく、食育の関係か本当に小柄な印象を受ける。
そんなミトスの背には、身の丈不相応な弓と矢筒があった。
「……えっと、それで。どうして、ミトスは追われていたの?」
ひとしきり感謝の波が落ち着いたのを確認し、ボクは少年に訊ねる。
すると彼は、ハッとした顔をしてからこう言うのだった。
「そうだった! あのオレ、助けを探しにきたんです!!」
「助け、だって?」
こちらが首を傾げると、ミトスは一つ頷く。
そして、こう語った。
「この先にオレの住んでいる村があるんですが、そこに近くの山から賊がやってきて。たくさんの人が攫われてしまったんです!!」
自分は命からがらそこから逃げ出してきたのだ、と。
彼の話をまとめると、こういうことだった。
ミトスの村は、山の麓にある小さな農耕地。
しかし、近年はその山の中に賊が住むようになり問題となった。そして昨晩、ついにその山賊たちが村に強襲をかけてきたのだ、と。
「オレ、逃げることしか出来なくて。でも他の人より足は速いから、助けを呼んでこようと思ったんですけど……」
「…………なるほど」
一通りの話を聞いて、ボクはしばし考え込む。
その後に、ちらりとリリアナたちに視線を投げると……。
「助けに行きたい、と言いたいのでしょう?」
「あ、バレた?」
「クレオの性格は重々承知していますから」
幼馴染みは、大きなため息をつきながらそう答えた。
彼女の言う通り、ボクはミトスの村を救えないかと考えている。ここにいるメンバーなら山賊を制圧することは容易いだろうし、場所を聞く限り時間のロスもゼロではないが、そこまで多くならないように思われた。
それでも、今回の旅の目的を忘れてはいけない。
その上でボクは、エスカリーテとキーンにも意見を求めた。
「わたしは、反対」
すると、先に意見をしたのは妹。
エスカリーテは淡々とした口調で、こう訴えるのだった。
「パパの命の方が大切だもん。お兄ちゃんも、そうでしょ?」
「それは、たしかにそうだけど……」
そこを指摘されると難しい。
妹の言う通り、今回の旅の目的は父の病を治すためだ。
しかし、だからといって危機に瀕している人を見捨てるわけにもいかない。どうすればいいのかと考えていると、キーンがこう言った。
「話を聞いていて思ったのですが、その村の場所だったら野営するのにちょうど良いかと。いずれにせよ今日はもう日も落ちそうですし、これ以上は進めません」
「なるほど……」
彼の話には一理あるように思える。
それに、この面子の中で最も旅慣れしているのはキーンだ。
ここはひとまず、彼の意見を聞いておいた方がいいかもしれない。だから、
「それじゃあ、ひとまずミトスの村を目指そうか」
「本当ですか!?」
そう宣言すると、少年の表情はパッと明るくなった。
「うん。でも、まだどこまで力になれるか分からないけど……」
「いいえ! それでも心強いです!!」
ミトスはボクの手を取って、幼い笑顔を浮かべる。
それを見ると、なおのこと力になりたいと思わされた。その時だ。
「…………」
「どうしたの? エスカリーテ」
「え……ううん。なんでもないよ、お兄ちゃん」
「そ、そう……?」
エスカリーテがミトスに対して、いつになく鋭い視線を投げていたことに気付いた。思わず訊ねると、妹は少し慌ててそう答える。
そしてその場を後にするのだが、ボクはそんな彼女の背中に違和感を覚えた。
理由はない。でも、どこか様子がおかしい。
「気のせい、か……?」
ボクはしばし考え、だがすぐに気持ちを切り替えるのだった。




