4.少女との約束。
「よう、クレオ――逃げ出さずによく来たな。そこだけは、褒めてやる」
「ゴウン・オルザール……」
ボクたちのパーティーは、ギルド前の広場で相手と対峙した。
戦斧を手に持ったゴウンは不敵に笑い、こちらを見下ろしている。その姿に怯むのは、傍らにいるマキだった。彼女はボクの服の裾を掴み、震えている。
「一つだけ、訊いてもいいですか?」
「おう、なんだ? 面白れぇ、聞いてやる」
そんな少女の姿をちらりと見てから、ボクは真っすぐにゴウンを見据えて言った。
「どうして、マキにそこまで執着してるんですか?」
「なに……?」
それに、彼は眉をひそめる。
そして明らかに不快な表情を浮かべながら、こちらを睨んだ。マキを見て、彼女の視線を見て、すべてを悟ったようにこう口にする。
「ほう。マキが話したのか」
「はい、そうです」
「なるほど、な」
短いやり取り。
その中で、ゴウンはどこか自嘲気味な笑みを浮かべた。
ボクはそんな彼の表情を見て、ある種の確信を持つ。ゴウン・オルザールは、なにか重要なことを隠している、と。
そして、それはもしかしたら――。
「………………」
ボクは深呼吸をしながら、昨日の夜、マキから聞いた話を思い出した。
◆
「ゴウンのことを、悪く思わないで――って?」
こちらが困惑の声を上げると、少女は一つ小さく頷いた。
目を伏せて、どこか迷うような口調でこう言う。
「もしかしたら、あの人――ゴウンさんは、僕のことを守ろうとしていたのかもしれない、のです。他の人を犠牲にしても、僕だけは生かそうと……」
「え、それって……?」
「おかしいのです! 僕には、無茶な指示は出さない! それに、身寄りのない僕のことを引き取ってくれたのは、他でもないゴウンさん、なのです……!」
「えっ……!」
次第に勢いを増していくマキの言葉。
それに押されていたボクだが、しかし少し考えた。あのゴウンが身寄りのない子供を引き取って守る、ということは、そこには大きな理由があるはず。
つまり、あの気性の荒さの奥には、なにかが隠れている……?
「だから、だから……お願いなのです……!」
「マキ、分かったよ。安心して?」
「クレオ、さん……?」
ボクはそこで、一つ決心した。
そして、ついに泣き始めてしまった少女の頭を撫でる。優しく声をかけると、彼女は潤んだ瞳をこちらに向けた。
それに笑顔で返して、こう伝える。
「明日、ボクが何とかするから!」――と。
◆
そして今、ボクはゴウンと相対している。
体格差は歴然とし、彼からはいかにも強者の雰囲気が漂っていた。
「なるほど、な……」
「ゴウンさん。もしかして、貴方は――」
「そこまでだ、クレオ。そこから先は、オレ様に勝ったら教えてやる」
「………………」
彼はそう言って、戦斧を構える。
ボクは呼応するように、剣を引き抜いてそれを見据えた。その時だった。
「だが、この人数相手に勝てれば、だけどなぁ!!」
「え、これって!」
ゴウンの号令と同時に、衆目を割って武装した冒険者が乱入してきたのは。
みな、すぐに彼を守るように陣を張った。
その数――五十は下らない。
「パーティー対パーティー――その条件を出したのは、お前だぞ? それなら、総力戦で臨んでも文句はないよなぁ!?」
ゴウンは大声で笑った。
勝利を確信したようにして、ボクらを見下ろす。
だけど、こっちは傍らの少女と約束したのだ。
「構いません。必ず――」
だから、改めて剣を構えてこう宣言した。
「ボクは、貴方を倒してみせる!!」




