2.互いに、伝えきれなかったこと。
書籍がここまで続くなら、本気でもっとこう……!(これ以上は言わないw
――どうして、なのだろうか。
あれだけ叱られて、説教され続けたのに、思い出すのは学園に入る前のことばかりだった。ボクにとっての父は、とても厳しい人物。
だけど、知っているんだ。
もうずっと、忘れていたけれど。
もっと昔は頼りになって、色々教えてくれて。
ボクがそれを実践して、上手くできたら褒めてくれた。
「クレオは、私なんかよりも才能があるな!」
そして、彼は決まってそう言うのだ。
まったく嘘のない、そんな笑顔で。
ボクはその言葉を聞きたくて、嬉しくて、期待に応えたくて。
だから、学園に入ってからも必死に頑張った。
どうして、忘れていたのだろう。
ボクたちはいったい、いつの間にすれ違っていたのだろう。
互いのことを想っていた。
互いのためを思っていた。
それに、違いはないはずなのに……。
◆
「マリンに、マキ! ダン公爵の容態は!?」
「依然として危険な状態です! 治癒に集中しますので、話しかけないでくださいまし!」
キーンが声をかけると、半ば怒ったようにマリンがそう答えた。
王城の中にある医務室には、緊張が走っている。エルフの青年が声をかけて以降は、完全に閉め切られてしまった。
それだけ、ダンの命は危機に晒されている。
「…………私に、できることは……」
キーンはまた、そう呟いて唇を噛んだ。
そして、ふとこの場にクレオの姿がないことに気付く。
「クレオ、さん……?」
どこに行ったのだろうか。
先ほどまで、一緒にいたはずなのに。
そう思ってキーンは、周囲の様子を確認に向かった。すると、
「…………クレオ、さん」
長い廊下の窓際に。
クレオ・ファーシードは、空を見上げて佇んでいた。
その横顔からはいったいなにを考えているのか、うかがい知れない。ただどこか、いつもよりも少し彼の背中は小さく思えて仕方がなかった。
「あの、クレ――」
「どうして、なんだろうね……」
そして、キーンが声をかけようとした時だ。
クレオは青年の存在に気付いていたのか、そう口にするのだった。そして、
「どうして、今さら思い出すんだろう……!」
声を震わせる。
彼の頬には、大粒の涙が伝っていった。
とめどなくあふれ出る感情は、もう制御ができない。
「ボクはずっと、父さんに認めてもらいたかった。それだけだったのに……」
嗚咽を漏らす、クレオ。
キーンはそんな彼を見て、静かにただ隣に立った。
言葉はない。キーンは、あえて無言で傍にいることを選んだのだ。
必ずしも、優しいそれが正解とは限らない。
何故ならいまのクレオの感情を、誰が推し量ることができようか。
だから、従者はただ隣にいる。
一人ではないと、静寂に語りかけるように。
慌ただしい時の中。
せめて、今だけは――どうか、ゆっくりと。
キーンは泣き続けるクレオを見て、そう願うのだった。




