4.ダンの戦い。
物語の冒頭で、この展開を予想した人はいなかったはず。
(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾ダン、がんばえ……。
「何者だ! ここが、神聖な場所であると知ってのことか!」
「あらあら。英雄の子孫は、やはり勇ましいのですね」
「……クリム!?」
父が声を上げると、その者は姿を現した。
間違いない。声の主は、魔族――クリムだった。
彼女は赤い目を細めて笑うと、何度か感心するように頷く。そしてボクと父を見比べて、満足そうにこう言うのだった。
「私としても嬉しい限りです。このように優秀な血族が、現代にも残っていることが。――もっとも、愚かな人間たちはそれを忘却したようですが」
得物を抜き放ち、クリムはまた笑う。
いったい、何をするつもりなのか。ボクが訝しんでいると――。
「……クレオ。ここは、私に任せろ」
「お父様……?」
真っ先に父がそう口にした。
驚き見ると、彼は手元に魔力を集めている。
ゆっくりと呼吸をし、集ったそれは次第に形を作っていった。
「これでも私は、王都立学園を首席で卒業しているからな。お前はひとまず王城の者たちに、避難するように伝えるのだ」
「そんな、お父様一人で……!?」
ボクが声を上げると、父はややこけた頬に笑みを浮かべる。
そして――。
「心配するな、クレオ。お前ほど優秀ではないが、私も公爵家当主――」
冷気が、一つの剣となった。
「病魔に蝕まれていようとも、簡単に死ぬことなどない……!」
◆
「ずいぶん、素直にクレオを見逃すのだな。そこの魔族よ」
「今回の標的は、貴方でしたもの――ダン公爵」
「…………ほう?」
クレオが王城へと走った後に、静寂の中で二人は言葉を交わす。
ダンは、クリムの言葉を聞いて眉をひそめた。自分が標的、というのは意外な話だ。そのことに興味を抱いた彼は、魔族の女にこう訊ねる。
「それは、いったいどういうことかな」
「ダン・ファーシード――おおよそ歴代公爵の中で、最も才能に恵まれながら、周囲にその実力を認められなかった者。魔族の間で貴方は、そう評価されています」
「ほう……。それは、光栄だな」
そして、返ってきた言葉に口角を上げた。
だが気は緩めない。そんな彼に、クリムはこう提案した。
「私と一緒にきませんか、ダン公爵」――と。
貴方はもっと正当に評価されるべきだ。
言外には、そのような意味が含まれているように思われた。
「…………」
クリムの誘いに、公爵は押し黙る。
しかし、数秒の間を置いてから腹を抱えて笑い始めるのだった。
「あっははははははははは! 昨今の魔族は、人間の手助けが必要なほど落ちぶれたか!? それとも、このダン・ファーシードが恐ろしいか!!」
すると魔族は、やや不快そうに目を細める。
それでも勧誘は止めない。彼女はさらに、こう提案した。
「えぇ、そう思われても問題ありません。ただ、よろしいのですか……?」
また、憎たらしい笑みを浮かべて。
「魔族となれば、その病も完治いたしますよ?」――と。
自分の命が惜しいだろう、と。
こちらにつけば、その身を蝕む病を消してやろう、と。
それには、さすがのダンも眉を動かした。
だが、すぐに目を閉じると――。
「……見くびるなよ? 魔族ふぜいが」
真っすぐに、氷剣を構えて笑うのだった。
「私は公爵家現当主、ダン・ファーシード! 王都の貴族の中において唯一、英雄の血を引く一族の長である!! もし、私を連れて行きたいならば――」
その、直後だ。
「――我が命を絶ち、骸を持ち帰るしかないと知れ……!!」
「な、速い……!?」
彼の姿が掻き消えて。
次の瞬間には、クリムの背後にあったのは。
とっさに、氷剣の一撃を防ぐ魔族の女。
鍔迫り合いの最中に、ダンはこう言うのだった。
「もっとも、お前ごときに私が殺せたら、な?」
「舐めた口を……!?」
クリムの表情から余裕が消え、闘争心が溢れ出す。
そうして、戦闘が始まった。
ダン・ファーシード。
彼にとって、生涯最後の戦いが……。




