3.荒くれ者の過去。
ゴウン・オルザール――元の名を、ゴウン・シンデリウス。
彼はこの王都における貴族、シンデリウス家の嫡子であった。しかしそのあまりに横暴、横柄な性格から臣下を始めとして、最後には父親に見限られる。そして廃嫡の道をたどったゴウンは、その腕一つで冒険者ギルドにて成り上がった。
だが、一定の地位を与えられたにも関わらず。
己を裏切った者たちへの恨みからか、その心は大きく歪んでいた。仲間という存在を都合のいい駒としか思わず、恐怖によってパーティーを支配。
実力至上主義を掲げるギルドは黙認し、今に至っていた。
「貴族の家から、廃嫡……か」
ボクは一人宿の部屋で、ベッドに仰向けで転がっている。
いま考えていたのはキーンから聞いた、ゴウン・オルザールの過去であった。境遇はこちらと似ているのだが、どうしても理解が出来ない。
大切な仲間を死んでも良いものとして扱うなど、考えられなかった。
シンデリウス家という貴族の家には、多少の聞き覚えがあったが、それでも事情には詳しくない。なにがあったのか。どうして、ゴウンはあそこまで――。
「――ん、どうぞ」
そこまで考えた時だった。
不意に、ドアがノックされる。声をかけると現われたのは……。
「あれ、マキじゃないか。どうしたの、眠れなかった?」
「は、はい。少しだけ、クレオさんにお話しておきたいことがあって」
「話……? 分かった、聞くよ」
「ありがとうございます」
ゴウンのもとにいた少女――マキだった。
少女はなにか申し訳なさそうにうつむきながら、ボクの隣に腰かける。そして、少しの沈黙の後にこう話し始めるのだった。
「あの……。変な話かもしれないですけど、お願いがあります」
「うん、なんだい?」
そう切り出し、こう口にする。
「ゴウンさんのこと、悪くは思わないで上げてください」――と。
次いで少女が話したのは、少し意外なゴウンの一面だった。
◆◇◆
「はん、あれが噂のクレオだとは、な……」
鼻を鳴らして、ゴウンは暗い部屋で一人エールを煽った。
自分に逆らった少年の名を口にして、あまりに不快そうな表情を浮かべる。彼にはとにかく、すべてが不快で仕方なかったのだ。
自分の思い通りにいかなかったこと。
食事の際に邪魔をされたこと。
そして、何より――。
「く……。マキまで、あっちに行くとはな」
少女――マキが、クレオの側についたこと。
彼にとっては貴重な捨て駒がいなくなったという、そんな感覚かもしれなかった。だがしかし、それ以上の怒りを胸に秘めているようにも見受けられる。
普段ならば、ただ怒鳴り散らす。
それを堪えているのが、ある種での証拠だった。
「まぁ、いい。取り戻せばいいだけの話だ」
そう言って、ゴウンはまた酒を喉に流し込む。
次いでおもむろに、懐から一つのペンダントを取り出すのだった。
それを見て――。
「くっ……くははは! オレ様は、どこまでいっても一人、ってことだな!」
大声で笑った。
しかし、それはどこか自らを嘲るようなそれ。
夜の街には、そんなゴウンの声が響き渡っていた……。