表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/210

3.荒くれ者の過去。





 ゴウン・オルザール――元の名を、ゴウン・シンデリウス。

 彼はこの王都における貴族、シンデリウス家の嫡子であった。しかしそのあまりに横暴、横柄な性格から臣下を始めとして、最後には父親に見限られる。そして廃嫡の道をたどったゴウンは、その腕一つで冒険者ギルドにて成り上がった。


 だが、一定の地位を与えられたにも関わらず。

 己を裏切った者たちへの恨みからか、その心は大きく歪んでいた。仲間という存在を都合のいい駒としか思わず、恐怖によってパーティーを支配。

 実力至上主義を掲げるギルドは黙認し、今に至っていた。




 



「貴族の家から、廃嫡……か」


 ボクは一人宿の部屋で、ベッドに仰向けで転がっている。

 いま考えていたのはキーンから聞いた、ゴウン・オルザールの過去であった。境遇はこちらと似ているのだが、どうしても理解が出来ない。

 大切な仲間を死んでも良いものとして扱うなど、考えられなかった。

 シンデリウス家という貴族の家には、多少の聞き覚えがあったが、それでも事情には詳しくない。なにがあったのか。どうして、ゴウンはあそこまで――。


「――ん、どうぞ」


 そこまで考えた時だった。

 不意に、ドアがノックされる。声をかけると現われたのは……。


「あれ、マキじゃないか。どうしたの、眠れなかった?」

「は、はい。少しだけ、クレオさんにお話しておきたいことがあって」

「話……? 分かった、聞くよ」

「ありがとうございます」


 ゴウンのもとにいた少女――マキだった。

 少女はなにか申し訳なさそうにうつむきながら、ボクの隣に腰かける。そして、少しの沈黙の後にこう話し始めるのだった。


「あの……。変な話かもしれないですけど、お願いがあります」

「うん、なんだい?」


 そう切り出し、こう口にする。


「ゴウンさんのこと、悪くは思わないで上げてください」――と。



 次いで少女が話したのは、少し意外なゴウンの一面だった。



◆◇◆



「はん、あれが噂のクレオだとは、な……」


 鼻を鳴らして、ゴウンは暗い部屋で一人エールを煽った。

 自分に逆らった少年の名を口にして、あまりに不快そうな表情を浮かべる。彼にはとにかく、すべてが不快で仕方なかったのだ。

 自分の思い通りにいかなかったこと。

 食事の際に邪魔をされたこと。

 そして、何より――。


「く……。マキまで、あっちに行くとはな」


 少女――マキが、クレオの側についたこと。

 彼にとっては貴重な捨て駒がいなくなったという、そんな感覚かもしれなかった。だがしかし、それ以上の怒りを胸に秘めているようにも見受けられる。

 普段ならば、ただ怒鳴り散らす。

 それを堪えているのが、ある種での証拠だった。


「まぁ、いい。取り戻せばいいだけの話だ」


 そう言って、ゴウンはまた酒を喉に流し込む。

 次いでおもむろに、懐から一つのペンダントを取り出すのだった。


 それを見て――。



「くっ……くははは! オレ様は、どこまでいっても一人、ってことだな!」



 大声で笑った。

 しかし、それはどこか自らを嘲るようなそれ。


 夜の街には、そんなゴウンの声が響き渡っていた……。


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ