6.父の背中。
ちょっとしんみり。
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「…………朝、か」
目を覚ますと、そこには見慣れない天井があった。
ボクは不鮮明な意識を起こすために、身を起こして大きく伸びをする。そして周囲を確認し、そこが王城の客室であることを思い出した。
「そっか。昨日はみんな、王城に泊まったんだっけ」
キーンの療養も兼ねて、という措置だ。
三人は慣れない環境に目を丸くしていたけれど、ボクにとってはどこか懐かしい。まだ公爵家にいた頃は、頻繁に足を運ぶことも多かった場所だ。
リリアナと遊んでいたのが、昨日のことのように思い出される。
――そう。あの頃は、みんなが笑顔だった。
「………………」
そこまで考えて、昨日の話を思い出した。
夢に、父とのことを見たのもまた、そのせいだろう。
「嘘じゃ、ないんだよね……」
キーンとエスカリーテの話を聞いていたボクは、耳を疑った。
すぐにリリアナにも確認し、それが事実であると知る。
そして、目の前が真っ暗になった。
「お父様が、不治の病に侵されている」
ダン・ファーシード。
ボクの父は、最新の治癒魔法でも及ばない病を患っていた。
◆
「おや、起きたのか。クレオ」
「え、お父様……?」
ボクが服を着替え、外に出ると父が立っていた。
まるで偶然を装っているが、その違和感は全然拭えていない。この時間に王城にいるのも変だし、狙ったようにボクの部屋の前に立っているのもおかしい。
しかし、今ばかりはツッコむのも野暮だと思えた。
「どうしましたか?」
「他人行儀はやめろ。昨日の和解が嘘のようだ」
「あはは。……うん、そうだね」
「少し、話がある。ついてこい」
ほんの少しの冗談。
しかし父はすぐに真面目な顔になると、ボクを手招いた。
頷いて彼の後についていく。すると不意に、こんな話題を振られる。
「……時に、クレオ。お前には好きな女性はいないのか?」
「へ……!?」
あまりに唐突だった。
だから、ボクは素っ頓狂な声を発してしまう。
でも父は至って冷静に、立ち止まって窓の外を見ながら言った。
「…………いや、な。私も良い歳だからな。少し先を考えたのだ」
「お父様……?」
ボクが声をかけると、あることに気付く。
こちらに背を向けた父の肩は、微かに震えていた。その理由を覚らせまいとしているのだろうか。しかしボクには、彼が震える理由を知っていた。
だから、その次に出た父の言葉が重く。
胸に響くのだ。
「私は、なにも残せなかったのだな……」――と。
ある朝のこと。
ボクは、父になにも声をかけることができなかった。
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