4.エスカリーテの宣告。
あけおめです(遅い
「……エスカリーテ、それ本気で言ってるの?」
「うん。本気で言ってるよ、お兄ちゃん」
ボクが父との対面を終えて部屋を出ると、なにやら困った顔のキーンと遭遇。そして連れられるがままに移動すると、そこには妹とリリアナの姿があった。
幼馴染も頭を抱えていたので、どうやらなにかあったらしい。
そう思って、ひとまず話を聞いてみたのだけど……。
「まさか、キーンと婚約したい、だなんて」
思わず苦笑いを浮かべてしまう。
以前からエスカリーテは、突拍子もないことを口にする傾向にあった。その場の思い付きとしかいえない提案で家臣を困らせ、周囲の人々を右往左往させる。
しかし、終わってみれば万事上手くいっていたり。
とにかく妹は、不思議な子だった。
「だめ? わたし、一目惚れしたの」
「一目惚れ、かぁ……」
小首を傾げながら見てくるエスカリーテ。
彼女の言葉を受けてから、ボクはキーンの方を見た。婚約を申し出られて、さぞ彼も困っていることだろう。そう思ったのだけど――。
「あ、あはは……」
――あれ、意外に満更でもない感じ?
キーンはたしかに、困ったように笑ってはいる。
だが、視線はエスカリーテの方へと向かっているように感じられた。頬も若干だが赤くなり、恥ずかしがっている、という雰囲気にも見える。
これは、つまるところ……?
「クレオ、少し良いですか?」
「うん。ボクもちょっと話があるんだ、リリアナ」
そう思っていると、幼馴染が手招きをしてきた。
ボクもリリアナの意見を訊きたいと思っていたので、二人で部屋の隅へ。そして、小声でこう言葉を交わした。
「ひとまず、エスカリーテとキーンさんの二人だけに」
「うん、そうだね。これは様子を見て決めた方がいいだろうね」
とりあえず、ここは当事者二人に任せよう。
そう決めてボクとリリアナは、キーンに一言して部屋を出るのだった。
◆
そして、取り残されたキーンは緊張で固まっていた。
何故なら彼もまた、この可憐な少女に一目惚れしてしまったのだから。しかもその相手は、尊敬するクレオの実妹ということで、緊張するなという方が無理な話であるように思われた。
対してエスカリーテは違和感なく。
表情も崩さずに、黙ったまま紅茶をすすった。
「キーンさんも、飲む?」
「え、あ……はい」
そして、彼女はキーンにそう声をかける。
小さく微笑みを浮かべているあたり、どうやら楽にしてほしい、という思いがあるようだった。それを察した青年は一つ、ゆっくりと息をついてから。
ふと気になって、こう訊ねるのだった。
「あの、エスカリーテさん」
「エスカリーテちゃん」
「……へ?」
「エスカリーテちゃん、って呼んでほしい」
だがすぐに、そう釘を刺されて硬直。
でもキーンは首を左右に振って、気持ちを切り替えるのだった。
「…………エスカリーテちゃん、なにか理由があるんだよね?」
そして、そう訊ねる。
キーンには、どこか思うことがあった。
いくら一目惚れしたからといって、こんな急速に距離を詰めるのはおかしい。だとすれば、そうせざるを得ない理由があるはずだった。
それを口にすると、エスカリーテは頷く。
「うん。実はね――」
続けて、神妙な面持ちになって。
少女はキーンに告げた。
だが、それは――。
「お父様、もうすぐ死んじゃうの」
「…………え?」
あまりにも、突飛すぎる宣告だった。




