2.公爵家の娘。
ちょっとサブの人間関係をちらり。
「………………ふぅ」
ファーシード親子が対面し、和解したのを聞き届けて。
リリアナは少し安堵したように息をついた。散々ダンのことを無能と罵ってきた王女であるが、彼はクレオにとって唯一の父親である。
彼女から見ても、あの少年が父親からの愛に飢えていることは分かっていた。
もっとも、クレオ自身は無自覚だろうが。
「リリアナお姉ちゃん、盗み聞きはよくない」
「あら、珍しいのですね。貴女が王城にやってくるなんて」
それを考えていた時だった。
リリアナの背後から、幼い少女の声が聞こえたのは。
振り返るとそこにはぬいぐるみを抱えた、小さな女の子がいた。
「そう? 珍しい?」
「えぇ、珍しいですよ。エスカリーテ」
「そっか、いつ以来だっけ……?」
その少女――クレオの妹であるエスカリーテは、小首を傾げて言う。
間もなく魔法学園に通うことになる彼女だが、基本的には引きこもり体質であった。そのため、あまり表舞台や王城に足を運んでくることはない。
それが、どういう風の吹き回しだろう。
ダンの後をわざわざ追いかけてくる、というのも変な話だ。
「……まぁ、いいでしょう。せっかく来たのですし、お茶でもいかがです?」
「お菓子、いっぱいある?」
「えぇ、もちろんです」
「いく!」
しかし、こういうこともあるだろう。
リリアナはそう思って、エスカリーテを茶会に誘った。
その時である。
「あぁ、王女様。ここにおられたのですね」
「キーンさん?」
廊下の先から、キーンが姿を現したのは。
彼は王女を認めて歩み寄ると、途中でもう一人の少女に気付いた。そして、
「…………」
「…………」
彼らは目を合わせ、黙ってしまう。
エスカリーテもキーンも、どこか呆けているような様子だった。
それこそ、なにかで突然に頭を殴り付けられたかのように。そんな二人の表情を見比べたリリアナは、一つの結論に至る。しばしの思案の後、こう提案するのだった。
「せっかくです。キーンさんも、ご一緒しますか?」
「え、え? なににです?」
青年も、茶会にこないか――と。
しかしキーンは会話の前後を知らないため、少々だが挙動不審になった。
そんな彼の服を引っ張ったのは、エスカリーテだ。
「お兄ちゃんと、お話したいな」
「…………!」
彼女は上目遣いに、キーンを誘う。
そうなると、どうやら彼も拒否はできなくなったようだ。
「分かりました。それでは、少しだけ……」
小さく、困ったように笑いながら頬を掻く。
エスカリーテは、微かに頬を赤らめた。
「…………ふふっ」
そんな二人を見て、リリアナは確信して笑う。
こういった縁もまた悪くない。
王女はそう思って、歩き出すのだった。




