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万年2位だからと勘当された少年、無自覚に無双する【WEB版】  作者: あざね
第24章

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8.不屈。

ちょい、長いかも。









「キーン、まだやってるの?」

「あぁ、クレオさん。……はい、私は今までの遅れを取り戻さないといけないですから」

「…………」



 ――ある休日のこと。


 キーンの鍛錬中に、クレオがやってきたことがあった。

 王都の外れ。人目につかない森の中で、キーンは必死に魔力を練り上げる訓練をしていた。当然、休みになるたびに足を運ぶので、尊敬する少年にも知られている。

 そんな彼も思わず舌を巻くほどだった。

 それほどまでに、キーンは一心不乱に鍛錬に打ち込んでいる。



「ねぇ、キーン? 訊きたいことがあるんだけど、いいかな」

「……何でしょうか」



 クレオが、しばしの沈黙の後にそう口を開いた。

 キーンは少し呼吸を整えてから、彼の方へと顔を向ける。それを認めてから、少年はエルフの青年に訊ねるのだった。



「もしかしてだけど、諦めてる?」――と。



 質問の体を取りつつも、確信を込めて。



「…………はは、凄いな。やっぱり、クレオさんは凄いです」



 その言葉を受け、キーンは息を呑んだ後に笑った。

 何故なら、図星だったから。少年の言葉は鋭く、真実を射抜いていた。

 真っすぐにクレオへと向き直ってから、キーンは少し考えてこう口にする。



「――正直、私の潜在魔力ではもう限界でしょう。これ以上の魔法の習得は叶わない。古代魔法の中でもさらに上位とされる、それらは夢のまた夢です」



 むしろ、どこか清々しく。

 キーンは小さく笑みを浮かべて、そう語った。

 自分のポテンシャルでは、どう足掻いても届かない領域がある。スタート地点があまりにも後方で、かつ努力を怠った過去があった。

 クレオにはまだ時間があるが、自分は成長の機会を逃し続けたのだ。

 その事実をキーンは、成人した今になって痛感している。



「ホントに、昔の調子に乗っていた自分を殴りたいですよ。お前は所詮、海を知らない小魚に過ぎないのだと。狭い世界で良い気になっているに過ぎない、と」

「キーン……」



 あまりに自嘲に満ちた表情に、クレオは思わず彼の名を呼んだ。

 それに対して、キーンはゆっくり目を閉じて言う。



「私はこれから、どんどん足手まといになっていきます。成長は見込めず、さらには特別な技能があるわけでもない」

「…………」

「きっと、私はパーティーを抜けるべきなんです。もっと優れた魔法使いなら、この王都の中にはたくさんいるはずですから」



 ――自分は役目を終えている、と。



 だから、クレオにそれを肯定してほしかったのだろう。

 彼は微笑みを絶やさぬままに、クレオのことを見つめ続けた。少年はそんな青年から目を逸らさずに、真正面から、その諦めの言葉を聞いている。

 そして、こう小さく言うのだ。



「そう、だね……」――と。



 肯定の言葉を。

 クレオはとかく誠実だった。

 だからこそ、嘘をついてまで励ますことができない。



「……ははは、やっぱりクレオさんは凄く……!」



 そんな彼の真っすぐな性格に、キーンは潤んだ声で笑った。

 ゆっくりとうつむき、握りしめた拳を震わせる。

 覚悟していた。そのはず、だった。



「――――っ!」



 涙が溢れ出す。

 決壊した感情の波は、止めどなく大地を濡らした。

 これほどまでに、不甲斐ないと思うことがあるのだろうか。これほどまでの挫折を経験することがあるだろうか。キーンは、言葉もなく肩を震わせた。


 憧れには届かない。

 届かないからこそ憧れなのだ。


 しかし、それを諦める時には必ず後悔が顔を出す。

 何かが違えば届いたのではないか。そんな、都合のいい妄想が浮かぶのだ。



「クレオさん、私はもう……」



 でも、それは違う。

 妄想は妄想に過ぎず、後戻りも許されなかった。

 だからキーンは涙を拭って、またクレオへ明るい笑みをみせる。そして、



「ここで、パーティーを――」

「さて、それじゃ特訓を始めようか!」

「え……?」



 脱退を申し出ようとした。

 その時だ。



「キーン、準備は良い? たまには少し違うこと、練習してみようよ!」



 クレオが、まるで今までの話を無に帰すかのようにそう言ったのは。

 少年は優しく目を細めて、キーンに語り掛ける。



「え、あの……!? 話聞いてました!?」

「聞いてたけど、関係ないよ。だってキーンには、まだ――」



 準備運動をしながら、クレオは言った。

 曇りのない瞳で。




「試してない可能性が、いっぱいあるんだからね!」――と。




 力強い少年のそれに、キーンは思わず呆けてしまった。

 でも、すぐに胸に何かが灯るのを感じる。



「試してない、可能性……」



 そして、彼の言葉を反芻した。

 もしかしたら、でいい。



 もし、まだ何かに縋る機会が残されているのなら。




「――っ! よろしくお願いします!!」




 その瞬間に、キーンの表情から迷いが消えた。

 やるなら、とことんやってやる。


 青年は、そう思って自身を奮い立たせるのだった。









「…………」




 リリアナは大きな穴のできた訓練場を見つめ、目を細めていた。


 間違いのない勝利。

 圧倒的な攻撃力を以てして、相手の残骸すら焼失させた。

 その確信があったから、少女は宣言したのだ。周囲の人々は開いた口が塞がらない、といったように砂埃の立ち込めた世界を見つめる。


 誰もいない。

 誰も声を発することができない。

 だから、リリアナは代表して再度の勝利宣言を――。



「さぁ、終わりに――」



 その、瞬間だった。













「まだ、早いですよ。……王女様?」














 息も絶え絶え。

 今にも倒れてしまいそうな、あの青年の声が聞こえたのは。



「なっ……!?」



 リリアナは驚愕し、後方を振り返る。

 すると、すかさず彼女の綺麗な顔に手のひらを突き出す者があった。






「この勝負は、私の……勝ち、ですね」








 声の主――キーン・ディンロー。

 彼は不敵な笑みを浮かべて、そう口にするのだった。



 


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