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7.隣にいるために。









「私とリリアナ王女の実力差は明白だ」



 キーンはそう呟いて前を見る。

 視線の先には、アルナと剣をぶつけ合うエリオの姿があった。状況は変わらない。先ほどと同じ、このままではジリ貧だ。

 そのことを理解しているから。

 青年は一つ、覚悟を決める必要があった。



「――膠着した戦況、それは相手にとって決して面白いものではない」



 状況を確かめる。

 キーンの言う通り、長引く戦いを嫌うのは自分たちだけではない。とりわけこちらを圧倒するだけの力を持ち、見定める余裕があるほどの相手なら、なおさらだ。

 此度の戦いの意味を考える。

 そこに、キーンは活路を見出した。


 すなわち相手が彼を見限り、勝敗を決しようとした時こそが勝機だ、と。



「――――!」



 そして、その時はやってきた。

 キーンの魔法を撃ち込まれたリリアナは、容易くそれをいなした後、自身の魔力を急速に高める。今までの比ではない。間違いなく、この戦いを決着するに相応しい魔法。蹂躙とも呼べるほどに圧倒的な、格の違いを見せつけるもの。


 だが、キーンはそれを待っていた。



「頼むぞ、エリオ……!」



 そう言って青年は駆け出す。

 リリアナに向かって、アルナとエリオの横を抜けて。



「させるか……!」



 アルナはそれを認めて妨害を試みた。

 だが――。



「どこを見ている、アルナ。お前の相手は、アタシだ!」

「く……!?」



 少年騎士を押し留めたのは、やはりエリオ。

 彼女はキーンの道を作るようにして、迷いなく剣を振るった。それによってエルフの青年は一直線に、リリアナのもとへ。

 距離にして、残り五十メイル。

 キーンは『ある魔法』の詠唱を開始した。



「遅いですよ。……遅すぎます」



 だが、それより先に。

 リリアナはそう、残念そうに口にした。

 すなわち、それは彼女の攻撃準備が整ったということ。すべてを薙ぎ払う、他の追随を許さぬ無慈悲な魔法の発現を示すもの。


 そして、その直後。





「…………く、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」





 キーンの、苦悶に満ちた声が響き渡った。







「本当に、残念です。エルフの英雄、その末裔である貴方は選ばれなかった」




 リリアナは力を開放しながらそう呟いた。

 彼女の魔法は狙いを過たず、確実にキーンを撃ち抜く。アルナとエリオ、そしてマキの三名には回避するだけの余裕があった。されど無策にも突撃を敢行した青年は、直撃を免れない。つまりそれは――。



「それでも、命を懸けたことは評価しましょう」






 ――キーンの死を、意味していた。







 リリアナは目を細める。

 どう勘定しても、キーンは助からない。

 そのことは他の誰でもない、魔法を放った張本人であるリリアナが理解していた。――否。理解以上、確信と呼んだ方が正しいようにも感じられた。

 だからこそ、王女はエルフの青年に敬意を払う。


 クレオと共にあること。

 それに、自らの命を賭した青年に。



「…………残念です、本当に」



 だが、あえて感情を見せず。

 リリアナはゆっくりと腕を下ろし、静かに――。









「この勝負、私たちの勝利です」







 ――勝利宣言を口にした。





 


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