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2.ゴウン・オルザールという男。





「あ、あの! 僕なんかのこと、助けてくれてありがとうなのです!」

「いいや、気にしないで。あんな状況で動かない方がおかしいんだから」

「そ、そんなことない、です……。クレオさん、カッコよかったです!!」


 頬を赤く染めながら、少女――マキはそう言った。

 色素の薄い長い髪に円らな青の瞳。身の丈はボクの肩にも届かない、幼い顔立ちをした少女は、昨日から何度も同じようにお礼を口にしている。

 大したことはしていないので、そんなに言われても恐縮なのだけど。


 苦笑いをしつつ、ボクは頬を掻いた。

 騒動の翌日。マキを含めたボクたちは、ギルドの談話室に集まっていた。


「とりあえず、怪我がなくてよかったよ」

「はい、ありがとうなのです!! あ、でも――」


 こちらの言葉に、胸の前で拳を握ったマキは頷く。

 だが、すぐにションボリとしたように、こう言ってうつむくのだった。


「ゴウンさん、すごい怒ってたです。それに……」

「あぁ。たしかに、ね」


 ボクは少女の言葉を聞いて、昨日のことを思い出す。

 それは、あの男性――ゴウンが咆哮した後に起きた出来事だ。





 ゴウンと名乗った男性は、身の丈が二メイルを超えるであろう偉丈夫だった。

 筋骨隆々な肉体に、重厚な装備をまとう。そして顔には深い傷跡を残しており、厳つい顔立ちもあって、対峙した相手に恐怖を与えるには十分だった。

 それでも、こちらはもう引くことは出来ない。


「いや、どなたか知りませんが。それでも、こんな小さな女の子に手を上げるなんて! ボクは無視できません!!」

「んだとぉ!? このガキが、偉そうなことを言いやがって……!」


 立ち上がり、こちらへと迫ってくる。

 後方で少女が悲鳴を上げた。彼女を守るようにしながら、ボクは問いかける。


「いったい、何があったんですか。話し合いで解決しましょうよ」

「うるせぇ! それを決めるのもオレ様だ。そこのマキはなぁ、オレ様の指示をまったく聞かずに行動しやがったんだ!」

「…………それは!」


 そこまで話をしたところで、マキは声を上げた。


「だって、あの状況では撤退して、僕の治癒魔法で回復するのが最善だったはずなんです! それなのに、ゴウンさんは無理にみんなを突撃――」

「黙れって言ってやがるんだ! この生意気な小娘が!!」

「ひぅっ……!」


 少女の言葉を遮って、またも拳を振り上げるゴウン。

 マキは頭を抱えてうずくまり、震えていた。ボクは改めて間に割って入る。


「やめて下さい! どうして、そんなムキになるんですか!?」

「このパーティーのリーダーはオレ様だ!! こいつらは全員、オレ様の駒に過ぎねぇ! だから誰が死のうが関係ねぇ!! 代わりはいくらでもいるからなぁ!!」

「そ、そんな……!?」


 そして、ボクは彼の言葉に絶句した。

 そんなのメチャクチャだ。命はそんなに軽々しく扱って良いものではない。しかも、仲間の命を第一に考えるべきリーダーの発言とは思えなかった。


 奥にいた、彼の仲間と思しき人たちに目を向ける。

 すると彼らは何も言わず、視線を逸らし、うつむいてしまった。


「ほらよ、文句を言ってるのはマキだけだ。ここのルールはオレ様なんだよ!」

「そんなの、おかしい!!」

「あぁ!? 部外者が口出しするんじゃねぇ!!」

「く……! だったら――」


 我慢できなかった。

 この時のボクは、少し冷静ではなかったかもしれない。

 それでも、だからこそ迷いなくこう宣言したのだ。


「この子――マキは、ボクが引き取ります! そして、勝負を申し込みます!」


 真っすぐに、その男の顔を睨みつけながら。



「そちらが負けたら、他の皆さんも解放してください!!」――と。





 果たして、それは了承された。

 ボクのパーティーとゴウンのパーティーは、近日中に勝負をする。


「でも、大丈夫なんですか? クレオさん……」

「ごめんね、キーンにエリオさん。巻き込んじゃって」

「いえ、それは良いんです。このパーティーのリーダーは、貴方です」


 キーンが話しかけてきたので、謝罪すると彼は首を左右に振った。

 エリオさんも同様に、肯定するように頷く。それでも、どうやらキーンの抱いた懸念は他にあるらしい。彼は一つ唾を呑み込んでから、こう言った。


 ゴウンという冒険者。

 その、強さを示す、とある指標を……。


「ゴウン・オルザール。アイツは――」



 眉間に、皺を寄せながら。



「『SSランク』の、冒険者なんですよ」



 


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― 新着の感想 ―
[一言] 相手のリーダーの横暴を止めさせるために 仲間を巻き込んでの決闘とか、クレオも横暴だと思う。 仲間を巻き込んでもし負けたらその責任って言うか要求は 仲間にも及ぶかもなんだから、それならせめ…
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