6.たった一つ、それだけで。
「クレオくんから見て、彼らの力量差はどれくらいあると思う?」
「………………」
アランさんの言葉に、ボクはしばし考え込む。
そして、正直に思ったことを口にした。
「やっぱり、魔法使いの力量差が際立っていると思います。キーンの魔法は間違いなく一線級で、ボクなんかより上質で、それでもリリアナのそれは規格外。エリオさんとマキの二人がフォローを入れてますけど、言い方を選ばなければ――」
「足を引っ張っている、ということか?」
「…………はい」
こちらが言い辛そうにしているのを感じ取ったのか、騎士団長は言葉を引き継いでくれる。そしてそれは、まさしくボクの考えていたこと。
キーンの魔法は確かに凄い。
時代が違い、生まれが違えば、王宮魔法使いとして活躍していただろう。
だけど今回は相手が悪すぎるのだ。
比較対象となるリリアナは、歴代の魔法使いの中でも最高傑作との呼び声高い存在。規格外のポテンシャルに加えて、学園時代に一層の努力をした。
入学時と卒業時では、ボクも彼女に大差をつけられていたのだ。
「ふむ、そうなると――」
アランさんは、顎に手を当てて一つ息をついた。
「この勝負、もうすでに決着しているのではないか?」
「………………」
そして、言いにくい言葉をあえて口にする。
だがしかし、きっとこの戦いを見ているすべての者がそれを感じていた。どう足掻いても、魔法使いの差でボクの仲間は、幼馴染に一枚落ちる。
それはもう、決定的な事実だった。
ボクもそのことは、戦前から把握している。
キーンは攻撃魔法において、リリアナに勝ることはない――と。
両者の実力を間近で見続けたこの目は、間違いなかった。
でも、同時にボクは知っている。
「まだ、です」
「ほう……?」
――キーンの持つ、特別な才能を。
彼はいうなれば、ボクと同じ凡才に違いなかった。
それでも一つ。ただ一点において、目を見張る分野があった。ボクはそれを思い出しながら、アランさんに向かって小さく笑いかける。
戦いは、学園の授業とは違う。
すべてが一発勝負であり、才能の差など――。
「力量差なんて、些末事ですよ」
そして、ボクがそれを口にした瞬間に。
戦況は大きく変化するのだった。




