9.あの日の約束。
さて、ちょっとバタバタしてて更新できませんでした。すみません。
今日からボチボチ更新しますね。
少しでも気になったら、書籍版をよろしくです!
「それにしても、久しぶりだね。リリアナ」
「……えぇ、そうですね」
決闘を明日に控えて。
ボクとリリアナは、夜の王都を歩いていた。
外はもうそれなりに冷えてきたのか、吐く息は白くなる。冬季も近付いているし、身体を壊すといけないと思ったのだが、彼女にはどうしても話したいことがあるとのことだった。昔からそういった無理を言ってくる王女様だが、それすら懐かしい。
ボクは少しだけ苦笑いしながらも承諾し、リリアナの隣についていった。
特に会話はない。
彼女と二人きりになると、いつも決まってそうだ。
わざわざ言葉を交わさなくとも分かるわけではないが、沈黙が苦痛ではない。子供のころからずっと一緒にいたから、という感じだろうか。
「あ、雪……?」
その最中だった。
ふと空を見上げるとそこには、ふわりと白い結晶がある。
肩に乗ったそれに視線を落としていると、リリアナがこう口にした。
「この場所で初雪を見ると、昔を思い出しますね」
この場所とは、どこだろう。
そう思ってボクは面を上げ、そして納得した。
「あぁ、英雄像の前か……」
そこにあったのは、剣を手にした立派な男性の像。
かつて世界を救ったとされる英雄。そういえば、今年の英雄祭も近い。
そう考えているとリリアナが、少しだけ前に進んでから振り返りこう言った。
「クレオは、あの日の約束を憶えていますか……?」――と。
小さな笑みを浮かべて。
ボクはそんな彼女の表情を見て、頷いた。
「うん、憶えてるよ。いつかきっと、二人で――」
一度、そこで言葉を切って。
小さな雪を手に乗せ、昔を懐かしみながら。
「英雄祭を回る、だったよね」
それは、学園生時代に交わした約束。
ふとした拍子にリリアナから出された条件だった。ボクはそれを承諾し、いつの日か共に祭りを回ろうと誓ったのである。
王女である彼女が、英雄祭の日に自由に動くのは難しい。
それは当時、貴族の嫡男であったボクも当然に理解はしていた。
だけど、その申し出が嬉しくもあったのだ。
「嬉しいです。憶えていてくれて……」
「忘れるわけないよ。だって、リリアナの無茶の中でもとびっきりだったから」
「うふふ。たしかにそう、ですね」
昔を懐かしみながら、ボクたちはそう言い合って笑った。
その中で不意に、リリアナはすっと目を細める。
そして――。
「ねぇ、クレオ」
「ん……?」
彼女は、頬を仄かに赤く染めながら。
胸の前で拳を握りしめ、こう言うのだった。
「よろしければ、今年の英雄祭で私を連れ出してくれませんか?」――と。
もう、お互いに子供ではない。
学園を卒業し、それぞれの道を歩み始めた。
彼女は王宮魔法使い。そして、ボクは一人の冒険者として。だから――。
「きっと、お父様も今年くらいは許して下さいます。だから……」
リリアナはその円らな瞳を潤ませて、こちらを見た。
それを受けて、ボクは少し呼吸を整え、一つ小さく頷く。
「うん、分かった。きっと迎えに行くから」
歩み寄り、その小さな手を取って。
二人でまた小さく笑った。
まだ、幼かったころの約束。
それを果たそうと、ボクはこの時そう思ったのだった。