4.エルフの誓い。
毎日更新、三日目。
発売は11月2日です。
加筆修正――いや、あれはもう再構築ですね。少なくとも、WEB版を楽しんでいただいている皆様にも、買っていただく価値があるものになっているかと。とにかく頑張りました(´;ω;`)
――この国の救世主となってほしい。
ボクはその言葉に、耳を疑った。
なんの取柄もない自分が、そのような存在になるなど考えられない。
だから、リリアナには曖昧な答えしかできなかった。彼女もそうなると理解していたらしく、数日の猶予をもらったけれど、このままではきっと足りない。
宿の部屋でボンヤリと窓の外を見て、ボクはずっとそう考えていた。
「どうして、ボクなんだろう」
アルナも言っていた。
彼の場合は、もっと柔軟な考え方のようだけど。それでも、ボクのことを取り立てようとしているのは明らかだ。
その流れに取り残されているのは、他でもないボク自身。
周囲からの評価に、驚きが隠せなかった。
「ん……? 誰、かな」
そうしていると、誰かがドアをノックする。
もう夜も遅い。そうなると、この部屋を訪れる人は限定されて――。
「クレオさん、少しお話いいですか?」
「やっぱりキーンか。いいよ」
予想通り、エルフの青年がそこにいた。
彼は中に入ってくると、その綺麗な顔に柔らかな笑みを浮かべる。彼が手頃なところにあった備え付けの椅子に腰かけたのを見て、ボクはベッドに座った。
互いに一息ついたところで、こちらから訊ねる。
「それで、どうしたの? こんな夜遅くに」
「………………」
すると、ふっとキーンの顔が真剣なものに変わった。
そして彼は静かに、こう口にする。
「クレオさんは、間違いなく救世主に相応しい器です」――と。
それを聞いて、ボクは察した。
「そっか。聞いてたんだね」
「申し訳ありません。本当は盗み聞きするつもりはなかったのですが」
「いいよ、大丈夫」
一連の会話を彼も聴いていたのだろう。
ボクは少し考えて、頬を掻いた。
「キーンは、ボクのことを評価してくれるんだね」
「もちろんです」
それは、どうしてなのか。
その答えを求めるような言葉を口にしていた。
そしてキーンもまた、把握しているらしい。ボクの弱気な視線を受けて、優しく微笑みながらこう語り始めた。
「クレオさん。私たちが出会った時のこと、憶えていますか?」
「うん、もちろんだよ」
頷くと、キーンは少し恥ずかしそうにする。
「本当を言えば忘れていただきたいのですが、あの時の私は井の中の蛙でした。辺境暮らしで持て囃され、その気になっていたのです。そんな私の目を覚まさせてくれたのが、クレオさんでした」
「そんな、たいそうなことはしてないよ」
やんわり否定するが、彼は首を左右に振って続けた。
「いいえ。アレが私にとっては、命を救われる以上に重要なことでした。英雄の仲間――その末裔であるという、生まれだけを気にしていた私にとっては……」
「キーン……?」
そこまで言うと、不意に青年は立ち上がる。
そして――。
「ちょ、ちょっと!? キーン、なにしてるの!?」
あまりのことに、つい時間帯を忘れて声を上げてしまった。
だって、目の前で片膝をつかれたら誰でもこうなる。恭しい所作で身をかがめて頭を垂れたキーンは、慌てるこちらとは正反対に、落ち着いてこう言うのだった。
「クレオさん。貴方は間違いなく、私が理想とする方。そして人々が尊敬し、また愛されるに足る人物であると確信しています」
「えっ……?」
「貴方自身にはまだ、自覚はないかもしれません。しかし、その無自覚がまた好いのです。謙虚な姿勢に私やエリオ、そしてマキは救われました」
「…………」
――だから、と。
キーンはおもむろに面を上げて、微笑んだ。
そして、こう告げる。
「どうか自身を忘れず、自信を持ち。この国を救ってください」
とても、安心できる声で。
「そして、今度こそは中途半端な誓いではなく。私は貴方の行く末に寄り添いこの身を捧げたい、そう思っています。だからどうか、私――いいえ、私たちも連れて行って下さい」
それが、願いであると。
キーンは迷うことなく口にするのだった。
「キーン……」
その言葉に、ボクは胸のすく思いがした。
一歩踏み出せなかった背中を、押してもらうのではない。
むしろ、手を取り合って共に歩んでもらうような安心感があった。
「……そっか」
だから、その時にようやく受け入れられたのだ。
ボクは自然と微笑んで、静かに頷く。
決意は固まった。
これで迷いなく前に進める、そう思った。




