9.すべてを背負い続けた男の、最期。
更新遅くなってすみませんでした((((;゜Д゜))))
私はとにかく、恨めしかった。
クレファスという家が、そしてそこに生まれた者たちが。
リーディン家はいつもそうだ。奴らの陰となり、汚れ仕事ばかりを押し付けられ、迫害され続けてきた。その果てにあったのは取り潰し、没落という結末。
辺境へと追いやられ、鬱屈とした日々を過ごした。
一族の者たちにも絶望したのは、いつだったか。
彼らは自らは何もせずに、ただ不平不満を口にするだけでなにもしなかった。誰も私を手助けすることもなく、毎日のように、漠然とした不安を述べるだけの傀儡。
事の発端はどこなのか。
それは考えても、致し方のないことだったかもしれない。
だが私に残された怒りの捌け口は一つだった。
「クレファスに生まれたこと、リーディンに生まれたこと、ただその違い」
そう、私にはなんの落ち度もない。
生まれた時から、すべての行く末は決まっていた。
どちらに生まれたか、それだけが、すべてを決めているのだ。
「ならば、すべてを壊そう」
クレファスも、リーディンも。
両家共倒れになってしまえば差異などない。
そう決意したのは、いつの日だったか。私は文献を紐解いて、魔族との契約方法を発見した。そしてそれを達成するために、長い月日を費やしたのだ。
「貴様の剣には邪念がある」
魔法学園生時代、クレファス家嫡男であったアイツはそう言った。
どの口がそう言うのか。私は腹立たしかった。
すべては貴様らのせいなのだ。
だから、私は――。
◆
「さーて、準備はいいか? ――エリオ!」
「あぁ、任せておけ。アルナ!」
クラディオの動きが止まったのを見計らって、二人はそう声を掛け合って集まる。そして、あえて怪物の目の前に姿を晒すのだった。
するとクラディオは目の色を変えて、一直線に二人へ猛進する。
「壊す、壊す壊す壊す壊すゥゥゥゥゥゥ!!」
ひび割れたような声で、クラディオは得物を振りかぶった。
それを振り下ろすタイミングを計って、アルナとエリオさんは同じ方向へ回避。クリムの言う通り、あいつの標的はあの二人なのだ。
つまりボクのことは眼中にない、ないしは優先度が低い。
「だとすれば、隙はいくらでも……!!」
壁に激突したクラディオ。
そのがら空きの背中へ目がけて、ボクは――。
「光を纏え――【セイクリッド・ライト】!」
剣に光のエンチャントをかけながら、思い切り振り下ろした!
黒化した皮膚を、眩い光が抉っていく。
肉を断つ感触があり、そして――。
「が、は……!?」
――ビクリ、と。
クラディオの身体が脈打つのが、分かった。
次いで溢れたのは、人のものとは思えない黒き血液ともいえない何か。勢いに任せて剣を振り切ると、彼の身体が綺麗に真っ二つになった。
臓器などはなく、ただ黒いヘドロ状のものが流れ出る。
「離れろ、クレオ!」
「うん……!」
アルナの言葉にハッとした。
そしてすぐに、後方へと飛び退る。すると――。
「……え?」
なにかが、聞こえた。
それは若い男性の声だったようにも思える。
『私は、悔しかった』――と。
彼はそう言うと、堪え切れずに泣き始めた。
自分はどうすれば正解だったのだろうか、と。
どのように振舞い、どのように訴えればよかったのだろう、と。
それは、あまりに大きな重圧によって言えなかった、そんな言葉に思えた。
だからボクは、思わず――。
「素直に、言えばよかったんです」
『え……?』
そう、口にしていた。
声のする方へと、ゆっくり歩み寄りながら。
背中にはアルナとエリオさんの、呼び止める声を受けながら。
「貴方はきっと、自分が思うほど醜くないです。誰もが、少なからず苦しい気持ちや、嫉妬を持って生きています。だから、どうか――」
ボクは、黒いヘドロへと手を差し伸べて。
泣き続ける男性へ、伝えた。
「もう、一人で泣かないで下さい」――と。
不思議な時間だった。
ボクの言葉は、果たして涙する男性に届いたのだろうか。
そう思っていると、彼は小さくこう言うのだった。
『君は、私を笑わないのか。笑わないで、いてくれるのか。そうか……』
そして、今度は感極まったように唇を震わせて。
『あぁ、あぁ……! 最期に、君に会えてよかった……』
そう、言い残して。
黒いヘドロが霧となって消えていく。
最後に残されたのは、クラディオの遺体だけ。
ただ深い皺の刻まれた彼の顔には、どこか安心したような表情があった。
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