5.錯乱するエリオと、一筋の光。
ちょっと駆け足かな。
あとで修正を入れると思います。
あの時の感触は、今でも覚えている。
少女の柔らかい身体に、自身の手にした刃が食い込み貫いた。
肉を断つ生々しい感触と流れる血。アタシはそれを見ないふりをした。
「ア、アァァァ……」
それなのに、どうして。
今この場においても、同じ光景を見ているのだろう。
「嬢ちゃん、大丈夫か!?」
仇敵である男が、獣人の少女に声をかけていた。
溢れる血を必死に止めている。それを見て、アタシは――。
「セ、ナ……」
頬に涙が伝うのを感じながら、ある日のことを思い出した。
◆
「えっと、その。セナの妹なら、アタシにとっても妹みたいなものだな、って」
「…………え?」
ある日のことだった。
アタシの髪を結ったセナに、そう冗談を言ったことがある。彼女の妹の話を聞いて、アタシもまたその中に入ってみたいと本気で思った。
だから、思わずそんな言葉が口から出たのだ。
「あはは! 私に髪を結われてる間は、エリオさまが妹ですよ!」
「そ、そんなことはないだろう!?」
しかし、返ってきたのは無邪気な否定の言葉。
アタシは少しだけショックを受けながら、セナにそう言い返した。だけど彼女はずっと笑い続けて、こちらの抗議を聞く様子はない。
こうなっては仕方ない。
そう思って、不貞腐れようと考えた時だった。
「でも。もし、本当に家族になれたのなら――」
「え……?」
セナが、どこか寂しげな声でそう言葉をこぼしたのは。
どういう意味なのか、それを問おうとした。
するとそれより先に――。
「ねぇ、エリオさま?」
少女が、こう口にした。
「私に何かあったら、妹のことをお願いして良いですか?」
「え、それってどういう?」
「あの子はまだまだ幼くて、意地っ張りで、ワガママですけど。エリオさまと一緒なら、きっと幸せになれると思うんです。だから――」
「セナ……?」
涙を堪えるような、そんな声で。
「妹を、リナを――よろしくお願いいたします」
アタシのことを後ろから抱きしめながら。
セナは、そう想いを託したのだった。
◆
それを、今になって思い出した。
大切な女の子との、かけがえのない約束を。
「セ、な……」
アタシは剣を取り落とした。
カランという乾いた音がして、足元に転がる。
ふと、その方向へと目をやると、そこにあったのは――。
「――――――!!」
リナの手から零れ落ちた、二つの簪。
間違いない。アレは、セナとの思い出の品だった。
「ア、あぁ、あぁぁぁ……!」
膝から力が抜ける。
涙が止まらない。簪に手を伸ばし、拾い上げる。
街の露店で買った、小さな飾りのついた安物だけど、かけがえのない宝物。
他でもない、アタシとセナの絆。
「アタ、しは……!」
それなのに――!
「アァァァァァァァァァァァァァァ!?」
アタシは、また繰り返した!
大切な約束だったのに、また……!
「もう、イヤだぁ……! こんなの、イヤだよぅ……!!」
涙が止まらない。
どうしたら良いのか、まるで分からない。
アタシはもう、どうしたら――。
「大丈夫ですよ、エリオさん……」
その時だった。
目の前の少女の口から、そう声が聞こえたのは……。




