4.壊れ行くモノ。
なんと本日2回目の更新。
新作もよろしくです。あとがきの下から飛べます。
「くはははははははは! 無様! なんとも無様!! さすがのクレファスも、儂の作り出した最高傑作――魔族と融合した剣士には歯が立たぬか!!」
「く、そ……!」
「アルナさん!!」
クラディオの哄笑が響く。
アルナは、剣を支えにしてどうにか立っていた。
眼前には黒化――クラディオ曰く、魔族と融合したエリオがいる。だらりと腕を垂らし、剣を構えることはない。いまの彼女の振るう剣に、型などない。
あるのは一つ、凶暴性。
人間の限界を超えた動き、力によって繰り出される斬撃は、連戦を重ねるアルナの体力を明らかに削っていた。加えて少年騎士は手負いだ。
クラディオもそれを知っている。
知った上で、アルナが苦しむことに愉悦感を抱いているのだ。
「嬢ちゃんは、さがってろ。近づくと危険だ」
「でも、このままだとアルナさんが……!」
リナの叫びに、肩で呼吸しながら答えるアルナ。
酸欠に陥っているためか、彼の視界はいま霞んでいた。それでも逃げることはできない。――否、逃げるわけにはいかなかった。
この勝負は彼にとっても、特別なものだったから。
「なぁ、エリオ……? お前、本当に苦しかったんだな」
「………………」
その気持ちが、口を突いて出る。
「訳も分からずに辺境に飛ばされて、そこで何があったかは知らないが。こんな滅茶苦茶になるまで精神をすり減らして、さ」
剣の柄を握りしめる。
「ずっと、我慢してたんだろ? ずっと、後悔してたんだろ? ――本当に、苦しかったよな。悲しかったよな。不安、だったよな……」
アルナは剣を構えた。
そして小さく、少年らしい笑みを浮かべる。
「だから、もう終わりにしようぜ。ここで……!」
その瞬間だ。
アルナは一足飛びにエリオへ斬りかかった。
まさに瞬く間に。誰も目では追い切れない速度で、彼女に肉薄した。
しかし――。
「ア、アァァァァァ!?」
「がっ!?」
その動きすら読んでいたかのように。
エリオは乱暴にアルナの身体を薙ぎ払った。幸いその一撃を剣で受け止めたため、少年は強か床に身体を打ち付けるだけに済んだ。それでも、相当なダメージにはなったが。アルナはふらつきながらも立ち上がり、ゆっくりと剣を構え直した。
「本当に、本当に……」
そして、うわ言のように何かを口にする。
あまりに小さな声は、音になる前に空気の中に溶けていった。
「エリオよ、いつまで遊んでいる?」
「………………」
そんな二人の戦いに口を挟む者があった。
言うまでもなく、その人物とはクラディオ・リーディン。
彼は自ら攻め込まない娘を見て、あからさまな怒りを込めて言った。
「積年の恨み、ついに果たす時だぞ。手早く済ませろ!」
無慈悲に、殺せ――と。
その言葉に肩を弾ませるエリオ。
彼女は頭を抱え込んで唸った後に、剣を構えた。そして――。
「ア、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
絶叫しながら、棒立ちのアルナに迫った。
「エリオさん!!」
だが、その時だ。
ついに堪え切れなくなったリナが――。
「嬢ちゃん!?」
二人の間に、身を投げ出した。
そしてエリオの剣は――。
◆
「破滅する……?」
「えぇ、そうです」
ボクの問いかけに、クリムはくすりと笑いながら頷いた。
そして愉快極まりないといった風に、こう続ける。
「あの人間は破綻していますから。魔族である私から見ても、醜悪でおぞましい。されど同時に、己の感情をコントロールできない幼稚さがある」
「…………」
「ですから、御し切れない力を手にしたら――崩壊しますわ」
そう言って、視線を屋敷の方へと投げた。
「そろそろ、動きがありそうですね」
「貴方は――」
「なんでしょうか?」
そして、話を進めようとする。
だがボクはそんな彼女に、こう問いかけた。
「貴方は、誰の味方なんですか?」――と。
すると、一瞬だけ真顔になってから。
クリムは意地の悪い笑みを浮かべ、こう答えるのだった。
「私は人間の味方などしませんわ。私の真の主は――」
静かに、ただ静かに。
「愚かな人間によって闇に呑まれた、あの方のみ」――と。
新作は下記のリンクから。
https://ncode.syosetu.com/n1007gm/




