2.対峙。
新作もよろしくです。
魔力をたどった先にあったのは、古ぼけた一軒の屋敷。
庭先の手入れなど微塵もされていない様子で、外壁や窓は魔物に破壊されたのだろうか。どこも綺麗な場所など見受けられなかった。
それでいて、日陰に建てられていることもあって暗い。
おおよそ人が住むために作ったのではない。
そう、思わされた。
「正面から、入るしかないか。二人とも気を付けて?」
「はい……!」
「分かってるさ」
ボクが声をかけると、リナとアルナは頷く。
それを確認してからゆっくりと、正面玄関の扉を開いた。
「これは……」
するとまず、目に入ったのは大きなシャンデリア。
床に落ちたそれは、無残に壊れていた。ガラス片や、それ以外にも瓦礫などが散乱しており、さながら迷宮のようになっている。奥もまともに見通せない。
最大限の警戒をした上で、ボクたちは中に入った。すると――。
「な、扉が……!?」
その瞬間、玄関扉が勢いよく閉じた。
リナが慌てて開けようとする。しかし、なにか不思議な力が働いているらしい。それはビクともしなかった。
そしてそれは、その扉だけではない。
魔力をたどってみると分かった。
「これは、完全に閉じ込められた……か?」
「うん。結界魔法が張られてる」
アルナもそれに気付いたらしい。
ボクは彼の言葉に首肯し、周囲を確認した。
割れた窓からも、分厚い魔力とでもいうのだろうか、とかく一筋縄ではいかないと思われる壁があるように感じられる。
警戒していたはずだった。
先ほどまで、微塵も魔法の発動を感じ取れなかった。それにもかかわらず、このような強力な魔法を一瞬にして成立させたのだ。
おおよそ、その犯人は分かっているが――。
「ようこそだな、客人たちよ」
いまは、それどころではなさそうだ。
声に反応して前を見ると、エントランスの奥に一人の男性がいた。
名前を聞かなくても分かる。きっと、彼が――。
「クラディオ……!」
アルナが、怒りを孕んだ声でその名前を口にした。
するとその男性――クラディオ・リーディンは、口角を歪めて答える。
「おやおや。誰かと思えば、クレファス家のご子息ではないか。何年振りだろうかな、元気にしておったか?」
「白々しい対応はやめやがれ。エリオはどこだ……!」
「アルナ、落ち着いてっ!」
煽るような口調に、思わず前に出そうになるアルナ。
そんな彼を落ち着けるように制してから、ボクはクラディオに言った。
「まずは、聞かせてください。どうして――」
「どうして、このようなことをしておるのか――か?」
「………………」
すると相手は言葉を遮って、そう目を細めて口にする。
ボクが黙ると、クラディオはニヤリと笑った。
「簡単な問いよな。そのようなもの、とっくに結論は出ているだろう?」
そして、そう前置きをして一言でまとめる。
悪事に手を染めて、魔族との契約にまで手を出した理由。それは――。
「嫉妬だ」――と。
なんの迷いもなく。
恥ずかしむこともなく、クラディオは自身の感情に名前を付けた。
「嫉妬、だと……?」
「……アルナ」
「てめぇの詰まらない感情に、エリオを巻き込んだってのか! しかも、それを悪びれることもなしに、堂々と!!」
少年騎士は感情を爆発させる。
彼にとっては、許されることではなかった。
醜いと思える感情によって、何人もの人生が狂ったのだから。
「悪びれる……? 面白いことをほざきおる」
「なっ……!?」
しかし、対してクラディオは怯むことなく言った。
「なぜ、悪びれる必要がある? なぜ、嫉妬を否定する? ――お前たちも感じたことはあるだろう。どうしても勝てない相手、届かない星に手を伸ばして努力を重ね、それでもなお至ることのできない屈辱の感情を。クレファスの子息よ、お主もよく分かっておるはずだ」
「そ、それは……!」
するとアルナが、口ごもる。
そんな少年を見て、相手はまた笑った。
「受け入れるのだよ。嫉妬とはすなわち、力に他ならない。シンデリウス家の若造は憎悪を力としておったかな。それと同じく、感情とは力になるのだ」
愉悦に浸るように。
その笑い声に、ボクは――。
「だからこそ、こちらは――」
「ふざけるな」
「……ほう?」
「クレオ……?」
我慢できず、そう口にしていた。




