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万年2位だからと勘当された少年、無自覚に無双する【WEB版】  作者: あざね
100話&コミカライズ決定記念閑話

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100/211

クレオの、ここだけの話。

皆様の応援、ご支援のお陰でコミカライズが決定しました!

心より御礼を申し上げます!


本編の中、どこかのタイミングのお話です。

肩の力を抜いて、気楽にお読みください!


<(_ _)>






「クレオさんの、弱点?」

「そう、弱点。いつも思うんだけど、クレオには穴がなさすぎる」

「それでエリオさんは、なにか弱点があるんじゃないか、って考えたのです?」



 宿の談話室で、クレオを除くパーティーメンバーは顔を突き合わせていた。

 キーンとエリオ、そしてマキの三人はそろって難しい表情を浮かべる。というのも、いつものクレオさん会議だが、そろそろマンネリが始まっていたのだ。

 結論として、クレオさん半端ねぇ! とはなるのだが――。



「たしかに、あそこまで万能だと不安になるのも分かる」

「そ、そうですね。最近だと、私に料理まで教えてくれてますし……」

「このままだと、クレオに甘えっきりになる。そうでしょ?」

「………………」

「………………」



 エリオの指摘に、二人は押し黙った。

 彼女の言う通りだ。キーンは古代エルフ文字の解読方法、マキは料理の基礎を彼から学んでいる。かくいうエリオも、筋力トレーニングの指南を受けているわけだが……。


 このままでは、自分たちに存在意義はあるのか?


 三人の中にはそんな不安がよぎった。

 別に弱みを握りたいわけではないのだが、安心ができないのだ。



「……探そう、クレオさんの弱点」

「あぁ、決まりだね」

「はいです……!」



 そんなわけで、作戦は決行されたのであった。







「お化け……?」

「はいです。最近、この宿のトイレに出るらしくて」

「んー、なるほど。でも、ゴースト系の魔物の気配はないけどなぁ……」



 翌日、マキはクレオにある相談をしていた。

 その内容というのも、宿のトイレにお化けが出るという噂がある、というもの。もちろん口から出まかせなのだが、マキの真剣な表情にクレオも首を傾げた。



 作戦その1。

 クレオはもしかしたら、お化けが苦手かもしれない。



 これはマキの提案だった。

 さしものクレオも、未知の存在については耐性がないかもしれない。

 少なくとも少女にとって、お化けという三文字は恐怖の対象でしかなかった。



「というわけで、退治にやってきたわけだけど」

「う、うぅ……!」

「あの、マキ? あまりくっつかれると、歩けないんだけど」



 そんなわけで、夜になって。

 マキとクレオは宿のトイレへと向かって歩いていた。ここでの誤算は、マキが自分の思っている以上に怯えてしまっていること。

 トイレにはキーンとエリオが待機しているわけだが、果たしてどのような準備をしているのか。その内容は、マキも知らなかった。



「う、聞いておけばよかったです……」

「なにか言った?」

「いえ!? なんでも!?」

「………………?」



 挙動不審な彼女に、クレオはまた首を傾げる。

 その時だった。



『だ、れか……たす、けて……』

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」



 掠れた女の声が、ハッキリと聞こえたのは。

 おののくマキ。そして、即座にクレオに抱きついた。



「大丈夫?」

「ク、クレオさんは怖くないんですか!?」

「んー、そこまでかな?」

「鋼の精神!?」



 明らかに動揺する少女を見て、クレオは苦笑い。

 とりあえず早く済ませてしまおう。そんな感じで、どんどんと進んでいった。


 そして、トイレに辿り着くと――。



「つめたっ!?」



 ――ぺちゃ、と。

 少年の首筋に、なにか冷たい感触があった。



「なんだ、濡れた雑巾か」



 しかし、まったく気にした様子もなく。

 彼はそれを取り払うと、トイレの中を探索した。



「ん、なにもないね。ゴーストの気配もないし」

「そ、そうですか……」



 最後はあっさりと、そう結論付ける。

 マキはもう疲弊しきって、ゲッソリとやつれていた。

 なので、その日はこれで終わりとなる。クレオと別れた少女は、宿の外へと向かって他二人と合流した。



「うぅ、手応えなしでした……」

「お疲れ様、マキ。意外と驚かなかったじゃない」

「エリオさん、なにを言ってるですか? あの声、エリオさんですよね。私、腰が抜けるかと思いましたよ……」



 そして、マキは少し恨めしそうにエリオを見る。

 すると彼女は短く声を発してから、こう言うのだった。



「え……? 声、ってなんのこと?」

「いや、掠れた声がしたんですよ。女の人の。エリオさんですよね?」



 その反応に、マキは呆れる。

 しかし、そこでキーンが言うのだった。



「……エリオは、ずっと私と一緒にいたぞ」――と。



 三人の間の空気が、明らかに凍った。

 マキは目を白黒させる。そして、力なく――。



「もう、だめ……」

「マキ!?」

「おい、しっかりしろ!!」



 その場で意識を失うのだった。









「えっと、エリオさん。今日はどこに行くんですか?」

「あぁ、少しな」



 ――さらに翌日。

 エリオはクレオを呼び出し、街を歩いていた。

 今日はエリオが立てた作戦の決行日。彼女は少し緊張した面持ちで、クレオの前を歩いていた。少年は特に文句もなくついてくる。


 そうしていると、見えてきたのはある店だった。



「ここって、女性服の?」

「そうだな。では、入るぞ」

「はえ? ちょっと、エリオさん?」



 というのも、女性服専門店。

 エリオの読みはこういうものだった。



 作戦その2。

 もしかしたらクレオは、ファッションセンスがないかもしれない。



 これもまた憶測でしかない。

 しかしながら、彼の口からそういった単語を聞いたことがなかった。だからエリオは、自身の服を選ばせてみようと考えたのだ。

 果たしてクレオは、どのような衣装を選ぶのか。



「ボクが選べばいいの?」



 そう思い、彼女は頷いた。

 すると少年はしばし、考え込んで――。




「エリオさんは中性的な顔立ちをした美人だから、なにを着ても似合うと思うんだ。でも今回はせっかくだし、フェミニンな印象の服を仕立ててもらうのもありかもしれないね。いや、それとは対照的な男性的――あるいは、ユニセックスなものを選んでも良いかも? それとなると、候補は三つのベクトルに分けられるかな。そもそもエリオさんは細身だから、紳士服を着ても似合うと思うんだよね。でも今日は女性服専門のお店だから、基本筋としては一本か。ユニセックスの衣装は――大丈夫、用意してあるね。品ぞろえには申し分なさそうだから、二時間もあれば最適な服を選ぶことができると思うけど、そうなってくると……」




 まるで、弾丸のように。

 彼はエリオに説明をしながら服を選び始めた。



「あ、う……?」



 エリオの思考回路がオーバーヒート寸前になる。

 この男はなにを言っているんだ――そう思いながらも、とりあえず頷いて呆然とクレオを見つめた。そして、次々に渡される衣装に着替えては鏡の前に立たされる。

 そのたびに、彼女はこう思うのだ。



 これが、アタシ? ――と。




 そんなこんなで二時間後。

 エリオはクレオと共に、会計を済ませて店を出た。

 彼と別れてしばらく唖然としていると、キーンとマキがやってくる。そして、一言も発せられない彼女に声をかけた。

 すると――。



「どうした、エリオ!?」

「だ、大丈夫ですか!?」



 突如として、エリオはその場に崩れ落ちた。

 そして、こんな言葉を漏らす。



「アタシ、女として負けた気がする」――と。




 二人は初めて見た。

 エリオの、本気の涙を。

 間違いない。それは、彼女の中でなにかが折れた涙だった。







「やばいぞ、このままじゃいつもと同じだ」



 キーンは焦っていた。

 二人が見事に轟沈して、残されたのは自分ただ一人。

 しかも自分は何も策を思いついていないときた。だがキーンもまた、クレオの弱点は知りたい。少しで良いから彼のことを知り、近づきたい。

 そう思ってはいた。


 だから――。



「こうなったら、単刀直入に訊くしかないか」

「なにを訊くって?」

「うわ、クレオさん!?」



 そう、口にした時だ。

 待ち合わせの場所にクレオが現れたのは。

 不意打ちを喰らったキーンはあからさまに狼狽えるが、クレオの方はどうしたのかと小首を傾げていた。そして、特に気にした様子もなくこう言う。



「今日は王都立図書館で、古代エルフ文字の勉強だよね?」

「あ、えぇ。今日もよろしくお願いします」

「それじゃ、行こうか」



 キーンの返事を聞いて、歩きだす少年。

 それに続いてエルフの青年も、肩を軽く落としながら進み始めた。そうして無言の時間が流れること数分。ふいに沈黙を破ったのは、クレオの方だった。



「それにしても、もうだいぶ寒くなってきたね」

「そ、そうですね」



 慌てて取り繕うように返事をしたキーン。

 そんな彼に、少年はこう訊いてきた。



「キーンは『英雄祭』って、知ってるかな?」――と。



 キーンは慎重に記憶を手繰り、一つ頷いた。



「はい、知っています。エルフは世界救済の英雄と深いつながりがある種族ですから。王都では彼を讃えるために、年に一度、祭を執り行うのですよね?」



 それは、千年前の英雄を崇めるための祭の話。

 辺境育ちであったキーンであるが、こと『英雄祭』については一般並の知識を有していた。世界を厄災――魔王の手から救い出した、伝説の英雄のこと。

 ふと視線の先に見えてきた像。

 それはまさしく、彼の英雄を模したものだった。



「うん、そうだね。世界の平和と、争いの根絶――その二つを願う祭」



 クレオは立ち止まり、像を見上げる。

 しばしそのまま黙り込んで、なにかを思い出すようにしていた。キーンは今しかない、と思って口を開く。彼にはもう、真っすぐに訊ねなければならない。



「あの、クレオさん?」



 意を決して。



「クレオさんは、これだけは駄目だ、ってものはありますか?」――と。



 するとクレオは、少し驚いたような顔をしてから笑った。

 そして、少し恥ずかしそうにこう答える。




「そうだなぁ、いっぱいあるけど。一番苦手なのは――」




 英雄像を再び見ながら。




「友達や仲間の苦しんでいる表情、かな?」




 ほんの少しだけ、目を細めて。




「ボクは世界から争いがなくなればいい、そう思ってるよ。ただ同時に、それが理想論であることも知っている。真実、人たちは争うことで発展を繰り返してきたから。この英雄もきっと、大きな葛藤の中で戦ってきたんだと思う」



 ただ、最後にはもう一度笑って。

 クレオはキーンを見た。



「でも、だから人は理想を目指すんだと思う。そのためにも、ボクは自分の手の届く範囲の大切な人を守りたい。そういう意味で、ボクはみんなに笑っていてほしいんだ」

「クレオさん……」

「えへへ。少し、カッコつけちゃったかな?」

「………………」



 エルフの青年は、息を呑む。

 そんな相手の様子を確認してから、少年は続けた。



「冒険者になってから色々な人の人生に触れてきたけれど、みんな多くの悲しみを背負ってきている。壁にぶつかって、そのたびに転んで、膝に傷を負いながら前に進む。でも、だからこそ今が愛おしいし、価値がある。それを守りたい。でも、ボクにできるのかな――って、時々に悩むんだ」



 キーンはその時に理解する。

 この少年は広く優しい心を持つが故に、苦しんでいるのだ、と。

 理想と現実の狭間で、聡いからこそ両者の価値を理解し慈しむために、人知れず苦しんでいるのだ、と。キーンはそれを知って、拳を震わせた。


 そして思わず、悲しげな表情を浮かべるクレオの手を取る。

 驚いた少年の顔をまっすぐに見て、キーンは言った。



「できます、クレオさんなら!」

「キーン……?」



 感情の昂ぶりを、言葉に乗せる。



「もしクレオさんだけでできないのなら私たちが、仲間がいます! みんなで手を取り合えば、きっといつかたどり着けます! だから、一人で――」



 ――思い悩まないで下さい。



 懇願するようにして。

 キーンは、クレオにそう伝えた。



「…………」



 最初は驚いていた少年だったが、次第にその表情は明るくなる。

 そして、首を静かに縦に振ってこう言うのだった。



「ありがとう、キーン。そうだね。ボクは一人じゃない」




 その言葉で、キーンは知ることとなる。

 クレオの一番恐れていること、それが何なのかを。それは――。




「さぁ、行こうか。早くしないと図書館が閉まっちゃうよ?」




 クレオがまた、先に歩きだす。

 そんな彼の後姿を見て、キーンはこう呟いた。




「孤独、か……」――と。




 きっと、クレオが恐れているのは『孤独』に違いなかった。

 だから周囲の人々には人一倍の気を遣うし、努力を欠かそうとしない。あれほどの力を持ちながら、認められなかった過去があるが故に自信が持てないのだ。


 だったら、自分にできることはなにがあるか。

 否――自分たちに、なにができるのか。



「必ず、貴方を支えてみせます。クレオさん……!」





 キーンは改めて、そう誓った。

 あの日、少年に救われた命を彼のために。

 そしていつか、彼が心の底からもっと笑えるように――と。




 


 これは、クレオの弱点。

 ここだけの、ちょっとした秘密の話だった。



 


改めまして、あざねです。

本当に、いつも応援いただきありがとうございます。


書籍化に続き、コミカライズの話をいただけて、本当に嬉しいです。

皆様にお届けするにあたってかなり、かなり頑張っております!

続報は追ってお知らせしますので、また少々お待ちください!!!!!!



<(_ _)>

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