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5.エリオから見た少年。






「今日こそ、雌雄を決する時だ――アルナ・クレファス!」


 数年前――騎士団訓練場にて。

 その日、二つの家の命運をかけた戦いが始まろうとしていた。小さな諍いから端を発した決闘。それは、その家の将来を決するほどの意味を背負っていた。


 一つは弱小貴族のリーディン家。

 もう一つは名門貴族のクレファス家。


 互いをライバル視してきた両家は、この日ついに最後の戦いを迎えた。

 次世代の当主による一騎打ち。これは、リーディン家から申し出された条件だった。当時の王都立学園において、剣術で1位の成績を修めていたエリオ・リーディン。その人ならば、必ずやこの決闘を制するだろうと踏んだからだった。


「キーキーうるせぇんだよ、エリオ。そんなに目くじら立てんなっての」


 対するは神童との呼び声高い、クレファス家の長男――アルナ。

 だらしなく伸ばした黒髪に、やる気の感じられない眼つきと態度。エリオは正直に言って、彼のことが嫌いで仕方なかった。

 剣に取り組む姿勢も、なにもかもが。

 だから、この条件が通った時には天恵を得たとも思った。


「両者、前へ!」


 ようやく、むかつくその顔に泥を塗ることが出来る。

 この時のエリオには、そんな邪な気持ちが満ちていたのだろう。


「――――始めっ!」


 そのためかもしれない。

 エリオ・リーディン――『彼女』が、決定的な敗北を喫したのは。





 そしてまた、エリオは敗北した。

 アルナと対して以来、研鑚を積んできたはずの剣でも。剣術に限れば、もしかしたら勝っていたかもしれない。しかし、視野狭窄に囚われ、決闘であることを忘れていた。その結果として、彼女はクレオという少年に容易く敗北してしまったのだ。


「我は、また……!」


 信じたくはなかった。

 また、同じような驕りがあったことを。

 しかし敗れたのは事実であり、相手に落ち度はなかった。だから――。


「クレオくん、願いはなんだ……?」


 うつむき、薄らと涙を湛えながら彼女は訊ねる。

 いったい何を言われるのだろうか。もしかしたら、また何かを失うかもしれない。そんな思いに、エリオは唇を噛んだ。

 そして、そんな彼女に告げられたのは――。



「えっと、ですね……」



 とても、意外な要望だった。



「復讐とか忘れて、ボクのパーティーに加わりませんか?」

「な、に……?」


 それは、誘い。

 新たな仲間として加わってほしい、という願いだった。

 驚き面を上げると、そこには一人の少年の笑顔。彼は頬を掻きながら言った。


「色々、大切なものを失ったのは知ってます。でもきっとそれは、エリオさんのせいじゃないと思うんですよ。だから、その苦しみを分け合いませんか?」

「クレオくん、キミは――」


 ――何者なのか。

 そう問いかけようとすると、それより先に少年は彼女の肩に手を置く。

 そして、一つ柔らかく頷くのだった。



「あぁ……」



 それを見て、エリオの中でなにかが解けていく。

 緊張だろうか。今まで張り詰めっぱなしだった感情が、どんどんと解けていく。それと同時に、相手が何者かなどということは、些末事になっていた。

 そんなことは、どうでもいい。

 自分はいま、ようやく救われようとしているのだから。


 一人の少年の、肯定によって。



「あぁ、分かった。我は――アタシは、キミのパーティーに加わろう」



 クレオの手に触れて、声を震わせたエリオ。

 久々に触れた人のぬくもりは、とても心地良かった。


 


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