表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誰かが誰かの背中をそっと押す話

作者: 赤星翁

一回こう言う話を書いてみたかったので書いてみましたが、難しいですね。

あまり感情移入しない方が読みやすいかと思ったので今回はそのように書いたのですがどうでしょうか。

最後の後書きで一つ、読んでくださった皆さんに問いを投げかけたいと思っています。

ぜひ最後までお読みください。


 屋上で人生相談をするなんて初めてのことで勝手が分からない。どうしてこんな羽目になったのやら。


 授業時間中に屋上でタバコを吸うのが俺の日課になっている。屋上の鍵は学年主任である俺と、あと他には数人しか持っている奴がいないからあまり見つかることもない。万が一にも生徒に吸っているところを見られるわけにはいかないし、見える景色も中々に綺麗で屋上という場所はとても都合が良かったのだが。


 ついに生徒に見つかってしまった。いや、まぁ俺から声をかけたんだけど。とはいえ流石に声をかけずにはいられない状況だった。

 屋上へとやって来たその女生徒は、入り口近くにいた俺に気付くこともなくフェンスへと足を進めると、おもむろにフェンスをよじ登り始めたのだ。


 彼女が目の前にフェンスがあったら登らずにはいられない無類の高いところ好きの馬鹿でない限り、屋上のフェンスを超える理由なんて飛び降りしかないだろう。

 兎にも角にもまずは彼女を止めなくてはと落ち着かせたところで生活指導、もとい人生相談が始まったのであった。



「えーと、一応聞いておくけど、今飛び降りようとしてたよな。高いところに登りたかったとか、綺麗な景色を見ようとしたとかではなく。」


 この高校は高い山の上に建っているため、景色は凄く良い。だからその景色を見るためにフェンスを越えようとしてましたーっていうなら話は幾分簡単になるのだが。その場合はまた違った生活指導が必要になるけども。


「……死のうと、してました。」


 だよな。そりゃそうだよな。景色なんてフェンス越しでも充分見えるし、高いところが好きなら給水タンクに登った方がよっぽど高い。というかスカイツリーにでも登った方が百倍マシだ。


「えーと、言いづらいとは思うけど、大事なことだから教えてもらえるかな。どうして自殺しようとしたのか」


 尋ねると彼女は少しずつ事情を話してくれた。2ヶ月前に転校してきたこと。クラスにあまり馴染めていないこと。同じクラスの佐々木という女子に虐められていること。親にも相談できず頼れる人がいないこと。

 最後の方は泣きながら嗚咽混じりに語っていた。それだけで彼女がこれまでどれ程悩み苦しんできたかが痛いほどに伝わってきた。


「成る程な。事情は分かったし、死にたくなる気持ちも理解できる。でもな、自殺は絶対しちゃダメだぞ。自殺するぐらいならその佐々木って奴をいっそ始末しちまった方がマシだ。」


「……始末って、その、殺す、っていうこと、ですか?」


「そういうことだな、直球で言うと。」


「……教師が、そんなこと言って、大丈夫なんですか?」


「まぁ、これも見られちゃったしな。今更だ。だから教師としてではなく一人の人間として人生相談にのってやるよ。」


 タバコをチラつかせながら苦笑する。つられるようにして彼女の頬も少しだけ上がった。人としてもあまり褒められた台詞ではなかったのだけど、少しでも楽になってくれるのなら良かった。


「続きを言うと、佐々木にはクラスメイトを虐めていたという殺される理由があるがお前には死んでいい理由がない。お前は誰かに迷惑をかけた訳じゃないし、逆に死ぬことによって色んな人に迷惑がかかる。だから死ぬのはダメだ。」


「なんか凄い、極端な意見ですよねそれ。悪いことした人は死んでも構わないって。」


「そんなもんでしょ世の中。じゃなきゃ死刑制度なんて成立しない。あれこそ犯罪者は死んでも良いっていう考えを国が実践してる証拠だしな。だからなんの罪もないお前が死ぬ必要は全くないわけだ。」


 教師だったらもっと綺麗ごとを言った方がいいんだろうけど、今は教師としてじゃなく一個人として人生相談をしてるんだし本音を言わせてもらう。


「さっきお前は頼れる人間はいないって言ったけど、今度からは俺を頼れ俺を。この屋上の鍵が開いてれば十中八九俺がいるから来るといい。ただ普段は鍵閉まってるから気を付けろよ。」


 キーンコーンカーンコーン。

 授業終了のチャイムが鳴り響き、本日の人生相談は終了を迎えた。次の時間は俺も授業があるし職員室に戻らなくては。


「さて、じゃあ俺は戻るからお前は好きなタイミングで教室に戻るといい。何なら今日は早退してもいいぞ。学年主任の俺が許可する。ただし、明日からは頑張れよ。」


 言うと彼女はぽかんとした表情で俺を見上げる。


「…頑張るって、何を?」


「色々とだよ。クラスメイトに話しかけて連絡先交換したり、一緒に帰ろうって誘ったり、さっき俺が言ったように佐々木を始末したり…な。まぁ明日実際に何をするかはお前次第、俺に出来るのはそっと背中を押すことだけだからな。」


 そういって、屋上を後にする。扉を閉める直前に見た彼女の顔は少し強張っていた。きっとこれから起こす行動について考えていたのだろう。一体どんな行動を起こすのか少し楽しみに思いながら扉を閉めた。

 帰る時になって鍵をかけ忘れたことに気づいたが、明日朝一番にかければいいかと考えそのまま帰った。




 そして次の日、学校は休校となった。

 理由は屋上から飛び降りたと思われる少女の死体が見つかったから。死体の名前は佐々木紗良。

 屋上には佐々木の靴と一緒に遺書のようなものも置いてあり、自殺ではないかと警察が話していたが、それを聞いて俺は苦笑してしまった。だって



 俺は、彼女の背中を押したのだから


さて、読んでくださった方にお聞きします。

今回の話、誰が誰の背中を押したと思いますか

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うーん。考えました。答えは出ませんでした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ